さらに考えなければならないのが、検察という組織の持つ特殊性。弁護士の武井由起子さんが指摘する。

「検察は行政機関であり、そこで働く検察官は公務員です。同時に、犯罪の疑いがあるとされる人を起訴する・起訴しないという権限を握る、司法の重要なプレーヤーでもあります。総理大臣さえ訴えられるという強大な権限を持つ、特別な公務員なのです。それゆえ政治権力からの独立を守るために検察庁法で定年を決めて、厳重に縛りを設けています。歴代の政府は1度も検察官の定年延長をしませんでした。それを一内閣が勝手に解釈を変えられるというなら法治国家ではありません」

 渦中の黒川氏は「官邸の守護神」との異名をとる人物だ。2011年から7年間、官房長や事務次官を務めた経歴を持つ。共謀罪をはじめ、安倍総理の肝いりの政策に関わってきた。そのため甘利明・元経済再生担当相が金銭授受疑惑で不起訴になったのも、森友学園問題で財務官僚が誰ひとり起訴されなかったのも、"黒川氏がもみ消したのではないか?”という疑惑が絶えない。

「『桜を見る会』やモリカケ事件などを通して、起訴されるべき人が起訴されず、検察や司法に対する国民の信頼が歪められる事態がすでに起きています。今回の法改正は降ってわいた話ではなく、これまでに起きたさまざまな問題の集大成と言えるのではないでしょうか」(武井さん)

 検察への不信感が高まると、治安の悪化を招きかねない。武井さんが懸念する。

「体調を崩しても検査は受けられず、マスクさえまともに配られていない。給付金も、いつ受け取れるのかわからない。誰も守ってくれないから自分の身は自分で守らなければと思うようになり、外出自粛しない人を監視する『自粛警察』の動きにつながっていきます。自粛警察がはびこる世の中は弱肉強食です。女性や子どもが攻撃されやすい」

若い女性にバッシングが集まるワケ

 今回、ツイッターで抗議した有名人のうち、中傷を浴びているのは主に若い女性タレントだ。《無知なくせに》《政治的発言をやめろ》といった非難の声にさらされている。

 作家の北原みのりさんは、「多くの芸能人が声を上げたのは、仕事がなくなるなど、私たちと同様にそれだけ逼迫した事態だということ」と分析、さらに、こう続ける。

「声を上げた中でも若い女性にバッシングが集中するのはもともとある性差別がコロナを通して浮き彫りになっているから。女性の言葉を軽く見て、話す内容ではなく声のトーンや知識の量を笑う。きゃりーぱみゅぱみゅさんがツイートを削除したと聞いて、追い詰められたんだと思いました。謝らなくていいよというバッシングを跳ね返す強い声を作っていかなければ」