中国は湖北省武漢市から広まったとされる新型コロナウイルスが、世界に混乱をもたらしてから約4か月が過ぎようとしている。しかし感染拡大はいまだ続き、終息のめどは立っていない。そんな中、日本では治療薬として、抗ウイルス薬の『レムデシビル』を特例承認。また、5月中に抗インフルエンザ薬の『アビガン』を承認の方向というが、両方とも重篤な副作用が心配され、米中で始まったワクチンの治験も終了の見込みは1年以上、先なのだ……。

 さかのぼれば、「結核ワクチンのBCGが有望かもしれない」といった話題がクローズアップされるなど、コロナ予防に振り回されたこの4か月。そう言えば、国内でも感染が広がり始めた2月下旬には、「新型コロナウイルスは摂氏57度(26度や36度のパターンもある)で死滅するため、お湯を飲めば感染を予防できる」、「しょうがスープで身体の熱エネルギーを増やせば、ワクチン接種は必要ない」なんてすぐにデマとわかる情報が流れていたほど。

 極めつきは、「花崗岩をお風呂に入れると殺菌効果がある」というもの。この噂を受けて、フリマサイトで高額取引されるケースも。

 今となっては、「そんな話あったね」と笑い話にできるかもしれない。が、人類の疫病との闘いを振り返ると、実は"白湯を飲めば治る”にも通じる"トンデモ治療”との闘いでもあったのだ。

“万能薬”として処方された有害物質

「水銀は神秘的な物質と思われていて、古代より何百年もの間、さまざまな症状を治すために処方されていた歴史があります」

 こう話すのは、俳優、タレントとして活躍するだけでなく、薬剤師の資格を持ち、勤務経験も持つ岩永徹也さん。

 水銀と言えば、'56年に熊本県水俣市にて発生した水俣病をはじめ、有害物質といったイメージも強い。しかし、常温、常圧で凝固しない唯一の金属元素という神秘的な存在が、「万能薬に違いない」と信じられ、何百年もの間、便秘、梅毒、インフルエンザ、気分の落ち込みなどの治療薬として使われていたという。水銀を吸い込むと身体によいと信じ込まれていたため、水銀を熱して蒸発させる『水銀風呂』に身を投じるといったスパ治療もあったというからビックリだ。

「カロメルと呼ばれる塩化第一水銀は、飲むと胃腸を刺激するので下剤効果があったと言われています。身体中の毒素を外に出してくれているのだから身体にいい……そう信じ込まれていたため一般的に流布されていったのでしょう」(岩永さん、以下同)

 なんでも、飲むと胃がムカムカすることから"寄生虫キャンディー”と呼称されていたそう。そんな名前をつけるくらいなんだから「疑えよ」と言いたくなるが、ナポレオンや人気作家のエドガー・アラン・ポーなど名だたる人物が愛飲していた治療法だった。