新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、収録を中止していたNHK大河ドラマ麒麟がくる』と連続テレビ小説『エール』が、6月から放送を中断することを発表した。

麒麟がくる』は来月7日、『エール』は同27日の放送をもって一時休止となる。また、ジャニーズ事務所も「全国的に警戒が必要な状況には変わりなく、継続的な感染予防対策を講じる必要がある」として、6月30日まで公演等を中止にすると発表した。

 8つの都道府県では現在も引き続き緊急事態宣言が出されているが、公園や市街地などには人出が戻りつつあり、一部で営業を再開する企業も少なくない。仮に5月31日を待たずして緊急事態宣言が解除されても「ドラマなどの現場では、ただちに収録を再開するのは難しい」と話すのは、テレビ局関係者だ。

ドラマ出演者をはじめ、スタッフ全員に撮影を再開する判断基準が書かれたガイドラインが配られました。これはアメリカのCDC(疾病対策センター)のガイドラインを基に作成されたもので、ハリウッドの制作現場でも指標とされています」

 ガイドラインには手洗いなどの感染予防や、人と人との接触を制御できる環境になっているかどうか、全スタッフの健康状態を把握する態勢が整っているのかなど、再開の要件を示すチェック項目が書かれており、その数は83項目にも及ぶという。

「俳優はカメラの前でマスクをするわけにいきませんが、監督や撮影スタッフは、常にマスクと手袋を着用する。アルコール消毒は濃度60%以上のものを使用する。他の人が触れた機材は消毒するまで触ってはいけない。手袋は着用後に廃棄するが、それによるゴミの量が増えるため、できれば指サックの使用が望ましい……など、とにかく細かいので、それを確認するだけでも膨大な作業になります」(同前・テレビ局関係者)

 撮影場所やロケーションについても、詳細な記述が並ぶ。

「美術セットを作る際にはのこぎり、ドライバー、ハンマーなどを共同で使わず個別に。共用する場合は手袋、指サックを使用しその都度、消毒する。差し入れは個別に包装されていないものは禁止、食事もビュッフェ式のケータリングサービスなどは使わず、十分な距離と広さを確保した場所でとる。また、密度を下げるため食事時間はずらすなど、読んでいるだけでクラクラするほど。ですが、命を守るためにはこのくらい徹底してやるのは当たり前だと思います」(ドラマ制作スタッフ)

 また、大河ドラマのような群集シーンが多い撮影の場合は、さらに厳しい。

「通常はロケ地の近隣住民の方に、撮影承諾書へのサインをいただくのですが、今の状況ではそれも濃厚接触とみなされるのでNG。でも、そもそもこれがないと撮影自体ができないので、合戦シーンなどはCGにするかカットするしかありません」(同前)

 先のテレビ局関係者は「このすべてをクリアするのはかなりハードルが高い」といい、制作スタッフも「撮影再開はまだまだ先になる」と見ている。

「アメリカでも、このガイドラインは厳密で細かすぎる、という声があがっているようですが、感染予防を考えれば、厳しくチェックしすぎるということはありません。また、アフターコロナに元の生活がそのまま戻るというわけではありません。制作現場でも安全に作成できるコンテンツというものを考えなければならない時期なのかもしれませんね」(NHK関係者)

 新型コロナウイルス感染症専門家会議からの提言を踏まえて厚生労働省が示した、新型コロナウイルスを想定しての『新しい生活様式』の実践例は約46項目。エンタメ業界にも現場の「新しい生活様式」が求められているのかもしれない。

(取材・文/小窪 誠子)