病身の父を責め、追い詰めて「死なせてしまった」原体験。罪悪感にかられ、泣くに泣けなかった少女時代を経て、たどり着いたのはホームレス襲撃問題だった。被害者に寄り添い、加害者を見捨てず、傍観者に働きかけることもあきらめない。この社会が、あるがままを受け入れ認め合える「ホーム」となるように―。

ホームレスの人々への偏見をなくす活動

「おはようございます! 北村年子です。すごくお久しぶりです!」

 7月14日午前8時、FMヨコハマのスタジオ。ノンフィクションライターの北村年子さんが、張りのある声でマイクに向かって語りかけた。放送中の番組は毎週月曜〜木曜の『ちょうどいいラジオ』の人気コーナー、「おはよう!ネンコさん」。

 新型コロナウイルスの感染拡大でこのコーナーは4月半ば以降、リモート放送になっていたが、およそ3か月ぶりのスタジオ入りとなった。

 この日のテーマは「自律心を育てよう」。

「自律心とは、自分で決めたことやルールに基づいて行動することなんです。ここ数年、教育現場でも子どもの自律心をどう育てるのかが課題になっています」

 そう語る北村さんは普段、自己尊重トレーナーとして各地で講座やワークショップを開催し、子育て支援活動にも取り組んでいる、女性にとっての“先輩ママ”のような存在だ。彼女の語り口には、悩んでいる人々をそっと包み込むような包容力がある。

 そんな北村さんが提唱する自己尊重とは「この世に唯一無二の、かけがえのない自分を慈しみ、大切に思う気持ち」を現す。それは自分を褒め高く評価することではなく、失敗や欠点を含めた不完全な自分をあるがままに受け入れ、「今この自分が価値ある存在」と思えることでもある。

 特に子育てに悩む母親たちに、そんな啓発活動を続ける北村さんであるが、実はもうひとつの顔もあわせ持っている。それは路上で生活するホームレスの人々への偏見をなくす活動だ。

 といっても北村さんは花柄のワンピースが似合う華やかさがあり、世間一般でいう「ホームレス」という言葉が持つイメージからは、ややかけ離れた雰囲気の女性だ。

 厚生労働省によると、日本には2019年1月現在、東京、大阪、神奈川などを中心に約4500人のホームレスが確認されている。高齢化のために年々減少傾向にあるが、彼らに対する偏見はいまだに根強い。それを象徴するのが若者たちの投石などによるホームレス襲撃問題である。

 始まりは1983年だった。横浜市の山下公園でホームレスの男性が、少年10人に殴る蹴るの暴行を加えられ、死亡した。以来、全国各地で70件以上発生している。加害者の大半が10代の若者たちだ。

 襲撃を食い止め、ホームレスへの偏見、差別をなくす教育を実現するため、北村さんは各地の支援者仲間に呼びかけ、'08年に「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」(以下、HCネット)を立ち上げ、代表理事となった。

 活動の軸は、全国の小中高、大学、専門学校などで教材DVD『「ホームレス」と出会う子どもたち』(HCネット制作)を使った授業を実施し、ホームレスの実態や社会的背景を理解してもらうことだ。

 少年らによる襲撃事件があると現場へ駆けつけ、その地域の教育委員会や学校に授業の取り組みを要望してきた。初めは門前払いだった教育現場も、今では研修や講演を依頼してくるようになった。

「全国各地で授業をしてきたかいもあってか、'12年以降、路上生活者が亡くなる襲撃事件は起きていません。教材DVDも約4000枚売れ、多くの学校現場に行き渡りました。だから今後は、自己尊重トレーニングや自尊感情を育てる教育活動に重点を置いていくつもりだったんです」