とまあ、そんな下世話だが深い企画の数々が『ルックルックこんにちは』の売りだった。並行して、ニュースやスキャンダルも扱うわけで、文字通り「ワイド」な幅を持つショーだったのだ。

 そんななんでもあり的な空間にリアリティーと安定感をもたらしていたのが、いかにもなんでもあり的なたたずまいを持つ司会者・岸部さんのゆるさだった。彼はそういうかたちで、番組に貢献していたといえる。

岸部さんが作った「ゆるみ」の魅力

 前出の堺は、同じグループサウンズのザ・スパイダースで世に出た人でもあり、かつての「戦友」について「ユーモアがあり、タイガースにいい意味での“ゆるみ”をもたらした」とも言っている。そのとき同様、彼はワイドショーにも絶妙な「ゆるみ」をもたらしたのである。

 そして、現役のワイドショー司会者でもある前出の坂上は「今後はこういう方が出づらくなっているのかな」と語った。実際、今のワイドショーは扱うのが芸能にせよ政治にせよ、坂上流の容赦なく斬るスタンスが主流。鋭さを狙うあまり、どこか狭さを感じさせる。この状況で、かつての『ルックルックこんにちは』のような番組は成立しにくいだろう。

 さて、そんな番組の司会を13年半務めた岸部さんだが、大御所として悠々自適の余生、とはならなかった。司会で稼ぎすぎて、金銭感覚がおかしくなり、副業やら骨董やらに手を広げたあげく、借金を作って、番組を降板。自己破産してしまう。このあたりが、元祖ポンコツタレントたるゆえんかもしれない。

 それでも「オレを誰やと思うてんねん。元金持ちやぞ」といった自虐トークで生き延び、晩年はどんないじられ方をしても怒らないという芸風で異彩を放った。そんななか、象徴的な「事件」が起きる。

 '11年に『ミヤネ屋』(日本テレビ系)が、風水に詳しい女性芸人を使って彼の自宅を模様替えさせ、運気を上げようという企画を敢行。彼が10万円以上の価値があると主張していた古書を数百円で売ってしまうなどしたため、批判が殺到して、芸人が謝罪する事態となった。

 これもまた、ワイドショー的ななんでもありの一環とはいえ、高齢者の趣味をバカにしたかのような後味の悪さが残った。また、拝金主義的な世の中の気分を反映していたともいえる。彼はワイドショーにいじられることで、そんな時代の変化を世に知らしめたのだ。

 半世紀にわたって「ゆるみ」の魅力を振りまき続けた岸部さん。ゆるさが足りない世の中だからこそ、その死がいっそうさびしく感じられる。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。