末期がんの飼い主を看取ったチロ

 特養への入居は、原則として介護認定で「要介護3」以上の人が対象。入浴や食事、排泄などで支援や見守りが必要となる。「さくらの里山科」では年間30名ほどが亡くなっている。

 80代のある男性が愛犬チロ(ポメラニアン)と入所したとき、男性は末期がんで余命3か月だった。延命も治療もホスピスも断り、愛犬とともに暮らすことを選んだ。

 ホームの1階ホールでは、毎週1回、職員がウェイトレスに扮し、喫茶店のイベントを行う。男性は毎回、車椅子でチロをヒザに乗せて参加した。ここで10か月ほど暮らし、亡くなる1か月前にも施設のバス旅行を楽しむなど、最期の半月以外は元気に過ごしていたそうだ。生前から「チロに看取られて死にたい」と周囲に話していた男性。亡くなったとき、枕元にはチロがいた。

 遺されたチロのような犬猫は、その後もホームで安心して暮らせる。これまでにペットとともに入居した利用者は、犬2匹と猫1匹の飼い主それぞれが亡くなったという。

「さくらの里山科」で入居者と暮らす犬たち
「さくらの里山科」で入居者と暮らす犬たち
【写真】特養で高齢者と仲良く暮らす愛らしい犬猫たち

 チロのような看取りの光景は、「さくらの里山科」では珍しいことではない。若山さんが「かけがえのない存在」と話す保護犬の文福は、ここを終の棲家とする利用者の最期に何度も立ち会ってきた。

「同じユニットにいる高齢者が亡くなるのを数日前に察知して、傍に寄り添うんです。枕元で文福に見守られて亡くなった方が何人もいらっしゃいます」(若山さん)