職員も犬猫が大好き

 こうしたペットたちとの生活を、ここで暮らす利用者は実際にどう思っているのか。

 愛猫の祐介と暮らす澤田冨興子さん(80代)は「毎晩、祐介と枕を並べて寝ています。ずっと一緒にいられて幸せです」と話す。ミックス犬・ミックの飼い主、山田美津子さん(80代=仮名)は「捨てるなんてできないし、どうしよう……と思っていました。一緒に暮らせてよかった」と、ほほ笑む。

6年前に愛猫・祐介と入居した澤田さん。このホームなら離れ離れになる心配はない
6年前に愛猫・祐介と入居した澤田さん。このホームなら離れ離れになる心配はない
【写真】特養で高齢者と仲良く暮らす愛らしい犬猫たち

 また、高齢になり1度は手放した愛犬を連れ戻せたというケースも。佐々木節子さん(80代=仮名)の愛犬、マルチーズのベラは、親戚に連れられ新幹線で半日かけて、ホームにやってきた。佐々木さんは「もう1度、ベラと一緒に暮らせるなんて夢のようです」と言う。

 こうしたペットの世話は、犬猫ユニットの職員がすべて行っている。ただでさえ介護現場は忙しい。利用者に加えて犬や猫の面倒までみるのは、負担ではないのだろうか?

よく、大変じゃないの? と聞かれるのですが、基本的に職員は犬猫が大好き。“犬ユニットに欠員が出たら、行きたいです”と伝えてくれる職員もいるほどです。大変さはあると思いますが、それよりも愛情が上回っているんですね。職員が持ってきてくれる犬猫グッズが増えてしまって、おやつにいたっては“持ち込み禁止”にしたほどです(笑)。犬好き、猫好きのパワーですね」(若山さん)

 利用者も、犬猫も幸せに暮らす「さくらの里山科」。気になるのは費用面だ。

「特養ですから、国が定めた基準に基づき費用が決まります。自治体によって違いますが、同じ横須賀市のユニット型の施設と変わりません」 

 と、若山さん。収入によって変動するため、月4〜5万円から、高い人で25万円程度。だが実際は、25万円になる人は滅多にいないそうだ。そのほか、犬猫の餌代・医療費などは自己負担になる。

 ペットと暮らす介護施設のニーズは今後、増していくだろう、と若山さんは言う。

「今の80代くらいの方々は、ペットは庭で飼うもの、という文化でした。しかし、室内飼いが始まっていた団塊世代も、いずれ介護施設へ入居します。10年後には、山科のようにペットと暮らせるホームを希望する高齢者が増えるのではないでしょうか」

(取材・文/吉田千亜)