心の回復は現実を直視し語ることから

「どの方も当事者の自助グループにつながり、カウンセラーや弁護士など専門家の助けを得て母との関係を整理し、距離を取るという選択に至っています。母娘間の確執は、時間がたてば自然と解消されるものではなく、娘に支配的な母は多くの場合、最後まで現実を直視することはありません。平均寿命が延びて、母娘関係も長くなる時代です。母との関係が苦しい人は、介護で追い詰められる前に、1度立ち止まって母娘関係を見つめてみることが大切です

 寺田さん自身も、自助グループに長年通うなかで「母をあきらめる」ことができた。

「どんなに母にひどいことをされても、娘はどこかで愛を信じたくて、『私のためを思って殴っていたのでは』『私が優しくすれば母も変わるかも』という希望を捨てきれないもの。でも、自分の感情を押し殺していると、いつかコントロールできなくなり、そのしわ寄せが、子どもや自分より弱い立場の人への支配的な振る舞い、自傷行為といった形で出ることもあります。

 母との関係を直視するのは勇気がいりますが、心の回復には経験と感情を言葉にし、自他から免責される過程が不可欠です。適切な自助グループなら当事者同士で安心して心のうちを分かち合えるでしょう。自分の苦しさが何に起因するかを知ることは、人生を前に進めるために大切なことです

 読者がこういった自助グループへ参加したいときは、どうすればよいのだろうか。

「カウンセリングなどの支援機関から紹介されるほか、ネット検索でもグループの情報がヒットします。市区町村の家族問題の相談窓口で情報を得られることも。お試し参加を重ね、自分に合うグループを見つけてほしいと思います」

 母との問題を整理できても、「親の介護はしない」のは人間として失格なのでは……、と自責感を深める人は多い。寺田さんは、取材した信田さよ子さん(原宿カウンセリングセンター所長)の言葉にハッとさせられたという。

「長年、母娘関係のカウンセリングに携わる信田さんは『人は自分がしたことの責任をとる必要がある。母も同じ。娘に嫌われることは、母が自分のしたことの責任をとることであり、それは母を人として尊重することでもある』と。娘は自分の人生と子どもたちを守るために、手放さざるをえないものもあるという指摘はとても大事だと思いました」