2020年11月30日よりスタートした、NHK連続テレビ小説『おちょやん』。松竹新喜劇で活躍し、「浪花のお母さん」と呼ばれた女優の浪花千栄子さんをモデルとしたヒロインの生涯を描く作品だ。

 だが、もうひとり、「浪花のオカン」として親しまれた女優がいた。いや、むしろこちらの女性のほうが記憶に残っているのではないだろうか。

 大阪はもちろん、全国区でも女優、そして天才芸人として知られたミヤコ蝶々さん、その人だ。

 7歳から芸に生き、戦中戦後と時代に翻弄され、恋を糧にした蝶々さんの生きざまは、彼女の存命中から幾度となくドラマや舞台となり、いずれも大反響を呼んできた。

 女性が自分らしく生きることがまだ難しかった時代。そんな中、人間の喜怒哀楽を生業としながらも、己の感情とのせめぎ合いに紆余曲折しながら前に歩み続けた彼女の物語は、時を越えて人々の胸を打つ。

 そんな蝶々さんに魅せられたひとりが、女性漫画誌を中心に活躍された人気漫画家の長崎さゆりさんだ。10年ほど前、蝶々さんの生涯を、美しく力強い珠玉の作品として形にした。しかしその後、闘病生活に入り、入退院を繰り返すことに。そして、同作品の改訂版を週刊女性に託した後、2020年9月に58歳で逝去された。

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 死後もなお、まさしく蝶のように魅力をふりまき続けるミヤコ蝶々さん。素顔はどのような女性だったのだろうか。

 そんな蝶々さんを、亡くなるまで傍らで見続けたひとりの人物がいる。蝶々さんとの“関係”がコロコロと変わり、それでも寄り添い続けた男性は、蝶々さんの実の息子だった。しかも、それが正式に判明したのは、蝶々さんの死後、数年たってのことだった─。

「あのオバはんには、本当に苦労させられましたわ……」

 こう語るのは、大阪で建設関連の会社を経営する日向利一さん(76)だ。長年、蝶々さんの父親・英次郎さんの養子、つまり年の離れた義弟といわれてきた利一さんだが、蝶々さんの死後、DNA鑑定で実の息子と判明した。上背があり、がっしりとした体形の利一さん。鼻と口元に、どことなく蝶々さんの面影がある。

 蝶々さんのことを「オバはん」と、ぶっきらぼうに語るが、そのそっけなさに、親しい人間だからこその愛情が垣間見える。

「物心ついたときからお父ちゃん(英次郎さんのこと)とオバはんと、柳枝と暮らしとったんです」