家庭内暴力、手に負えない子どもの問題行動に思い悩んだ末、愛するわが子を手にかける親がいる。なんとも痛ましい「産んだ責任としての殺人」とはーー。凶悪事件も含め、200件以上の殺人事件などの「加害者家族」を支援してきたNPO法人World Open Heartの理事長・阿部恭子さんが、レポートする。

 自宅で長男を刺殺したとして殺人罪に問われ、一審・東京地裁で懲役6年の判決を言い渡された元農水事務次官の控訴審が12月15日、東京高裁で結審した。

 被告人と妻は、長年、引きこもり状態だった長男の家庭内暴力に悩まされていた。それゆえ、被告人の境遇に同情する声も多いという。

愛する息子に芽生えた殺意

「この事件はとても他人事とは思えませんでした。私も、わが子が多くの人を不幸にする前に、産んだ私が責任を取らなくてはと思い……。手をかけたんです」

 信子(仮名・60代)の長男は、生まれたころから身体が弱く、入退院を繰り返していた。食べ物のアレルギーが多く、ほかの子どもたちのように活発に遊びまわることができず、しばしばいじめの対象になっていた。

「丈夫な身体に産んであげられなかった罪悪感から、家では甘やかしてしまったと思います」

 信子は息子の欲しがるものはすべて買い与え、多額の小遣いも渡していた。息子は次第に金目当てに集まってくる悪い仲間とつるむようになっていった。中学では校則違反で信子は何度も学校から呼び出しを受け、高校に入ると万引きや暴走行為で警察から呼び出されるようになった。

 息子がどれほど荒れようとも夫は仕事を言い訳に無関心。信子は誰にも相談できず、ひとりで問題を抱え込んでいた。

 そんなある日、事件が起きた。警察が自宅にやってきて、世間を騒がせている高校生によるリンチ殺人の件で、息子から話を聞きたいのだという。信子は身体中、震えが止まらなかった。

 息子は連日、警察署で事情を聴かれていた。信子は戻ってきた息子を問い詰めると、

「俺は何もやってないし、何も知らない」

 そう言って信子を突き放すのだった。外をのぞくと、自宅の周りに人が集まり始めている。マスコミが動き出していた。

「息子があの事件の犯人だとしたら、家族は終わりだ」

 信子はこの瞬間、息子への殺意が芽生えた。