さらに14団体のひとつで、妊娠にまつわる「どうしよう?」を抱える女性へ寄り添い相談支援を行う団体「ピッコラーレ」が、「支援している入院中の妊婦の方が、電話を持てず緊急連絡が出来なくて困っている」とFacebookに書き込みをしているのを佐々木さんは見つけた。

 実はその以前から、生活に困窮している人たちが携帯電話を持てない、持っていても料金が支払えずに使えない状態になっていることに、多くの支援団体の人たちが憂慮していたことにも気づいていた。

「それでインターネット回線を使ったIP電話のアプリを入れたスマホを無料で貸し出すことにしました。そのシステムを作る会社(合同会社合同屋さん)とつながることができて、実現しました。いわばLINE電話なんかと同じです。ただLINE電話には電話番号はないですよね? 今、携帯電話番号は社会的なIDなんです。たとえば生活保護を利用してアパートをさがすことになっても、不動産屋さんでは電話番号を聞かれます。働こうと面接を受けるにも電話番号は必要です。電話番号を持つことが生きることに必須なんです

佐々木さんもホームレスだった

「つながる電話」と名付けた本人負担ゼロ円のスマホ貸し出しサービスは『東京アンブレラ基金』や全国の支援団体を通じて、これまで80台以上が貸し出されている。スマホ本体は助成金を申請してまかなっている。「携帯電話(を持つこと)は人権です」と佐々木さんは言う。スマホを得て仕事を、家を、再び手にできた人が大勢いるのだ。

 そして昨年暮れからは、生活保護申請がオンライン上でできるシステム「フミダン」を始めた。

「12月15日からスタートして、申請は3件ありました。これまで生活保護は申請するかしないかで時間がかかってきた。揉めることが多いんです。福祉事務所で生活保護を受けさせないようにする、いわゆる水際作戦がありました。もちろん申請書を出したらその後、ご本人が福祉事務所に行って面談をします。でも、すでに申請書は受理されているわけですから、かかる時間が違います。コロナ禍にあって人と人が接することを極力少なくできます」

 厚生労働省は昨年クリスマスに、「生活保護の申請は国民の権利です」「ためらわずにご相談ください」というメッセージをSNSで流した。それから「#生活保護は権利」というハッシュタグが数万回もツイートされている。

 その一方で福祉事務所では、ありえないことに生活保護を申請させないようとする職員による横暴が数多く見られ、申請者当人はもちろん、支援団体もそれに時間をとられ、手を焼いてきた。「フミダン」はそれを緩和させるための画期的なシステムで、コロナ禍で生活に困窮する人が増える中、注目を浴びている。

 それにしても佐々木さん、どうしてこんなに次々新しいシステムを作っていくんですか?

「一人の職業人として、よりよいものを作りたいということです。気づいた人がやるべきだと思っていますから」

 実は佐々木さん自身、ホームレスの当事者だった。札幌から作家を目指して上京。友人の家に寝泊まりして投稿を続けながらバイトをしていた。ところが、友人の家をでなくてはならなくなった。アパートを借りるお金はない。仕方なくネットカフェに寝泊まりしながら、食品工場の冷凍庫で仕分けをしてファミレスに配送するアルバイトをした。
 

「でも身体の調子を崩してしまい、『もやい』に相談に行きました。生活保護を受け、アパートに入り、その後、さっきも言ったとおりにウェブ広報の職員になったんです」

 当事者目線でやっているというのはありますか?

「それはどうでしょうか。もちろん自分の体験が根源にはあります。やってきたことは無にできないですし、自分の人生は否定できません。でも、今はたまたま自分が持っているスキルを使って、気づいたことをやっているんです。少しでも当事者や支援者が便利になれば、と願っています」

 台湾でデジタル大臣を務めるオードリー・タン氏は独学したIT技術を活用し、インターネット・コミュニケーションでよりよい社会を構築していく。佐々木大志郎さんも同様、独学したIT技術でコロナ禍に於ける日本社会の「困った」を解決していこうと奮闘している。

 いよいよ2度目の緊急事態宣言が発出された。私たちは再び緊張を強いられる生活に入る。同時に仕事を失い、家を失う人が増える懸念がある。佐々木さんもまだまだゆっくりすることはできそうもない。

〈取材・文/和田靜香〉