「すごい先生だ」と洗脳されていく

 服用から1か月。心身がますます不安定になった美紀さんのリストカットが始まった。

「娘は抗うつ剤、抗精神病薬、睡眠薬を飲んでいました。でも私たちは薬の意味もわからなくて……。薬を飲んでいるのにリストカットをする。だから薬を飲まなかったらもっと悪くなっていたのかな、と思い、“ちゃんと薬飲んでるの?”と娘に尋ねることもありました……精神医療に無知な私が馬鹿だったんです」

 後悔を口にする祐子さん。これが手口だった。

 関係者によるとYは患者に当たり障りのない病名をつけ、治療にもならない薬を処方していたという。だが、違法薬物ではない。“治療”と言って処方されれば患者は疑わずに服用する。そこが医師による加害の恐ろしいところなのだ。

Yが処方していた薬のひとつ。一般的に流通しているものだ
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 Yは投薬でリストカットするほどに精神を落とし、次に“飴”を与え、気分を高めさせた。精神状態が不安定な状況を患者に作り出していた。

「気分が落ち込んでいたら気分が上がる薬を出す。そうすれば体調はよくなる。ハイテンションが続けば落ち着く薬を出す。先生の言ったとおりに薬を飲むと治った、と思うわけですよ」(同)

 父親の久明さんも、

「テンションが高いとき、夜中にカラオケに行こう、とせがまれたこともあります」

 塞ぎ込んでいた美紀さんが活動的になれば当然、家族は「元気になってきた」と思う。そんな状況が繰り返され、「Yはすごい先生だ」と美紀さんは洗脳されていく。

 次にYは自分に依存させるように仕向けていった。

「とにかく口がうまい。“嫌われている”“医師を辞めようと思う”と言って同情を引き、女性たちの心に入り込んで懐柔していく」(祐子さん)

 そして家族と対立させ、親子関係を崩壊させた。Yは美紀さんに「体調が悪くなったのは母親が悪い」「父親はこんなことを言った」などあることないことを吹き込んだ。

「娘と妻、妻と私の喧嘩が絶えませんでした」(久明さん)

 さらには個人的なメールのやりとりが始まったことで状況は一気に悪化する。Yは性的な内容のメールを送り、関係を迫るようにもなった。