激安価格の秘密は信頼関係

 秋葉さんの1日は、早朝5時半の起床から始まる。

「昔は3時半に起きて市場に行ってたけど、今は前の晩に、支店の注文も全部まとめてオンラインで買いつけます。一括で購入したほうが割安だし、食品ロスも減らせるので」

平日の午後からにぎわいを見せるアキダイ関町本店 撮影/齋藤周造
平日の午後からにぎわいを見せるアキダイ関町本店 撮影/齋藤周造
【写真】スーパー『アキダイ』秋葉弘道さんの奥さんと双子の娘さん

 7時前には市場に到着。前日に注文した青果を搬入し、その足で場内を見て回る。

「この時間だとほとんど取引は終わってるけど、逆にそれが狙い目なんです」

 売れ残った商品を自分の目と舌で確認し、納得すると、価格を交渉して即決、購入。新鮮なうちに店に並べる。

 大根1本10円、キャベツ1玉50円など、驚きの値段が実現するのも、商機を逃さないからだ。

 しかし、交渉上手な一方、「人の足元を見るような値段交渉はしない」と、卸売市場で10年近い付き合いがある、東京多摩青果・田嶋一志さん(49)は話す。

「秋葉さんは、男気があるんです。うちが在庫を抱えて困ってると、店で売れ残るのを覚悟で買っていってくれる。その気持ちがうれしくて、俺もいい野菜が入るといちばんに秋葉さんに知らせるし、喜んでもらいたいと力を尽くします。目先の損得じゃなく、相手を大事にする商売をする人です」

 男同士で飲みに行くこともある。田嶋さんが続ける。

「この商売、朝が早いんで深酒はしないけど、秋葉さんは明るい酒です。酔うと高校時代にやんちゃだった話をしたりね。うちの若い衆も、“焼き肉行くか”って連れてってもらったりしてます」

 長年築いてきた信頼関係を武器に、なじみの市場を回って新鮮な青果を買いつける。その額、本店、支店を合わせて1日700万円。4トントラック8台分にのぼる。

 店に戻ると、開店準備にとりかかる。エプロン姿で率先して荷物を運ぶのは、ほかでもない秋葉さんだ。

 関町本店は、青果を中心に肉や調味料など6000種類もの品ぞろえがあり、来店客は多い日で、2000人を超えるという。

「家から少し遠いけど、ここは安くて新鮮だから、つい来ちゃうわ」(70代・女性)

「B級品ていうの? ちょっと傷がついた野菜がすごく安く買えるから、家計が助かってます」(40代・女性)

 客もよく知っている。

 1992年に1号店の関町本店を開店して以来、30年あまり。直営の支店3店舗のほか、関連スーパー2店舗に青果コーナーを出店。パン屋、居酒屋も経営するなど、事業を拡大してきた。

 今期の年商は、コロナ禍で自炊が増えた影響もあり、前期2割増の35億円にのぼる。

 しかし、その道のりは順風満帆ではなかった。

「あんまり人に言うことじゃないけど、つらいこと、いっぱいありました。嫌になっちゃうことや、それこそ死んだほうがマシって追い込まれたことも。だけど、そういう経験ほど、振り返るといい思い出になってますね」