元受刑者の墓までつくる企業の輪

 創刊号には13社が求人を載せてくれた。デザイナー、ライターなど外部委託はしているが、これまで編集作業は三宅さんが1人でこなしてきた。

「もう無理、もう無理」

 年に4回、締め切りが近づき悲鳴を上げるたびに、夫が励ましてくれる。

「ひとつずつやればいいよ」

 この仕事を始めて、よかったと思う瞬間がある。ひとつは『Chance!!』を通じて採用になった元受刑者が笑っている顔を見るとき。

 もうひとつは思いのある事業主と出会えたときだ。

「受刑者は身寄りのない人が多いので、ある会社の会長が社員用にお墓を建てたんですよ。その話を別な会社の社長にしたら、ウチもまねすると言ってくれて。そんな素敵な輪が広がっていくのを見ると、本当にうれしいですね」

受刑者向け求人誌『Chance‼』には専用の履歴書がついている。薬物を断つ意志の強さや、心を入れ替えるために改善したい生活習慣、やり直しの決意表明など、独特の質問項目が並ぶ 撮影/伊藤和幸
受刑者向け求人誌『Chance‼』には専用の履歴書がついている。薬物を断つ意志の強さや、心を入れ替えるために改善したい生活習慣、やり直しの決意表明など、独特の質問項目が並ぶ 撮影/伊藤和幸
【写真】廣瀬社長や社員たちと、笑顔で食卓を囲う三宅さん

 残念なのは、せっかく配った『Chance!!』を「御社だけ特別扱いできない」と閲覧禁止にしたり、連絡先など一部情報を黒塗りにしている刑事施設があること。どう活用するかは各施設の判断に任されているからだ。

 今後は日本中、できるだけ多くの理解のある企業に参加してもらいたい。

「本当は、うちみたいな会社はなくなるといいんですけどね。出所者がちゃんと職に就ける仕組みができれば、それがいちばんいい。失敗とか、間違いを犯しても、許して受け入れることのできる、やさしい社会に近づいたらいいなーと思っています

 誰よりも強い意志と熱いハートを持つ三宅さん。たくさんの笑顔に背中を押され、挑戦は続く─。


取材・文/萩原絹代(はぎわらきぬよ) 大学卒業後、週刊誌の記者を経て、フリーのライターになる。'90 年に渡米してニューヨークのビジュアルアート大学を卒業。'95年に帰国後は社会問題、教育、育児などをテーマに、週刊誌や月刊誌に寄稿。著書に『死ぬまで一人』がある。