アンチに反発するぐらい気が強い

 もともと人見知りだったという彼女は「イヤだ」と泣いたというが、その重責を担い、AKBのブレイクに貢献した。ただ、秋元が描く物語に不満なファンもいる。第1回の総選挙では、2位が発表される際、会場から「前田コール」が起きた。秋元に推され、センターが当たり前だった彼女が1位にならなければ面白い、と考えたファンが一定数いたわけだ。

 前田はこのとき「私はAKB48に自分の人生を捧げる」とまで宣言したが、第2回では大島優子に敗北。それゆえ、第3回で1位に返り咲くと「もちろん、私のことが嫌いな方もいると思います」と切り出し、あの名言を発することとなる。

 つまり、彼女にはたとえアンチがいようともこのグループを引っ張ってきたのは自分だという意地がある。スピーチの際、彼女がキレぎみに叫んだのは、あの発言がアンチへの反発でもあったからだろう。

 とはいえ、自分がAKBの顔である以上、そのAKBが嫌われないなら、自己愛はかなり満たされるのである。

 そのぶん、AKBあってこその自分という思いも強く、卒業後は拠りどころを失ってしまった。ソロ活動では、アンチも自分自身で引き受けなくてはならない。そのため、新たな拠りどころを結婚に求めたのだろうが、AKBの代わりになるような安定した家庭は築けなかった。例えば、もう「私のことは嫌いでも、勝地涼のことは嫌いにならないでください!」などとは言えないはずだ。

 こうして自己愛のやり場がなくなった彼女は、個としてさまようことに。昨年末で所属事務所を退社し、フリーになったのもそのあらわれだろう。

 今後は、ハリウッド進出も狙っているというが─。映画館で刺身を食べるマイペースぶりは、たしかに海外向きかもしれない。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。