施設を出ても、生きていく手立てがわからない

 本来、無料低額宿泊所は、アパートなどの居宅生活に移行するまでの一時的な施設という位置づけなのだが、実際には何年も入所している人は少なくない。

 先述のCさんはバブル崩壊の影響で経営破綻したゼネコンの元社員寮に住んでいた。6畳部屋を薄いベニヤ板で区切った1.5畳で、アコーディオンカーテンがドア代わりという個室とは名ばかりの部屋に15年も住み続けてきたという。

とある無料低額宿泊所。窓の中に見えるタテ線のようなものが個室を細かく仕切るベニア板だ
とある無料低額宿泊所。窓の中に見えるタテ線のようなものが個室を細かく仕切るベニア板だ
【写真】Aさんが入所した施設Bの3畳の個室と不衛生すぎる屋外トイレ

「外に出してくれ」と、何度も市役所に相談したものの、「金遣いが荒いからひとり暮らしは無理」などと施設側がケースワーカーに吹き込むためにどうにもできずにいた。

 1階の灰皿設置場所でたばこを喫っていると、入居者同士で雑談になることもある。身体を壊して働けなくなったとか、事業の失敗、ギャンブルでサラ金に手を出したというような体験談も聞いた。多くの者は、施設を出た後に生きていくための情報やノウハウを持っていないため、どうしようもなくとどまっているというのが現状だった。

 Cさんは警備の仕事をしており月10万円の収入を得ていたものの、そのぶん生活保護費も減らされることもあり、自力でアパートを借りることもできない。何とかして出たいと思っていたCさんは新聞で『反貧困ネットワーク埼玉』の告知記事を見つけ、仕事に出かけるふりをして、相談会にやってきたのだった。

 なぜ、なかなか出してもらえないのだろうか。

「1人減れば、ひと月の稼ぎが約10万円減るわけですからね」と、高野さんは語る。施設によってバラつきはあるが、典型的なのは入所者が受給する生活保護費12~13万円を施設側が没収、住居費と朝夕の食費という名目で約10万円を搾取するというケースだ。入所者は1日ごとに渡される500円~1000円程度で昼食や日用品をやりくりしなければならない。

 確かに入所者の中には金銭管理が苦手な者もいるようだが、だからといって1日1000円以下ではたいしたものを購入することはできないだろう。施設側にとって、入所者は効率よく稼ぎを生み出すカモになっていると言えるのではないか。

 先日取材をしたFさん(74歳・男性)は、失業してホームレスになったとき、「3万円出すから寮に入らないか」と若いスタッフに声をかけられたという。つまり、生活保護を受給させて、本人には1か月3万円しか渡さないという典型的な手法だ。

「5人部屋のベッドハウスで、家賃・食費が10万円。ボラれたよ。食事は粗末で、食べたことがないような不味い魚が出た」

 それでも、Fさんは1年でアパートに移ることができた。その施設では遅いほうだったそうだ。

 厚生労働省が2018年に発表した調査によると、無料低額宿泊所の利用期間は、「3年以上」が39.1%と最も多い。次に多かったのが「1年~3年未満」の22.2%だった。支援団体が自治体にアンケートをとったところ、「最長で約10年」や「平均約5年」と返答した自治体もあった。

(※第3回は3月29日7時00分に配信します)


林 美保子(はやし・みほこ) 1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務などを経て、フリーライターに。経営者インタビューや、高齢者・貧困・DVなど社会問題をテーマにした取材活動に取り組んでいる。著書にルポ 難民化する老人たち(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)がある。