長期分割払いは、夫との関係修復に悪影響を及ぼす

 慰謝料は精神的苦痛の対価ですが、回収するために苦痛を強いられるようでは本末転倒です。何より気になるのは慰謝料の長期分割払いが夫との関係修復に悪影響を及ぼすことです。残りの80万円をすべて回収するまで咲良さんが恵梨香さんの存在を忘れるのは無理です。毎月のように思い出せば、同時に夫への怒りも再燃するでしょう。

 夫は少なくとも最初だけは咲良さんを気遣い、優しく接し、愛情を注ぐはずですが、その気持ちを素直に受け取ることができるのは咲良さんが恵梨香さんの存在を忘れた場合に限ります。心がこもっていないと感じたり、嘘をついていると疑ったり、「彼女(恵梨香)にも同じことを!」と察したり……すべてが裏目に出ます。大事なのは夫の“尽くす努力”ではなく咲良さんの“忘れる努力”なのです。

 大事なのはお金と気持ち、どちらなのか。咲良さんが胸に手を当てたところ、気持ちのほうを取ったのです。咲良さんは恵梨香さんに対してスマホでインターネットバンキングを操作し、20万円を振り込むように指示。自分の口座番号を伝え、振込完了の画面を確認し、咲良さんは慰謝料を受け取ったのです。咲良さんにとって恵梨香さんがどうなろうが知ったことではありません。100万円から20万円へ引き下げたのは彼女のためではなく自分のためです。先々のことをもろもろ考えた結果、「そのほうがいい」と考え至ったのです。

 このように咲良さんは夫の不倫の落とし前をつけました。

 介護施設は入居者の死を目の当りにするので生存欲求が刺激されたり、わがままな入居者に振り回されてストレスのはけ口を求めたり、長時間労働が日常化しているので癒しを求めるなど、職員には心身ともにハードな仕事です。それだけに、この夫婦のケースだけでなく、不倫に走る人も多々あると聞きます。

 しかし、性欲が高まりやすいという意味ではコロナ禍も同じではないでしょうか。配偶者が過ちを犯す確率が増加中の現状を考えると、咲良さんのケースを他人事だと思わず、万が一の場合の心づもりをしておいたほうがいいでしょう。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/