コロナで追い込まれたんでしょうよ

 様子が変わったのは昨年のこと。周辺に「リフォーム業をしている」と話していた小山容疑者は、マンションの管理費を滞納し、管理組合と支払い方法を相談するなかで、こう弁明したという。

「コロナで勤務先の業績が悪化し、週1日しか働けなくなってしまった」

 周囲に、飼っていた猫が死んだと話したのもこの頃。さらに滞納が続く小山容疑者に対し、親切心から短期の求人情報を手渡し、「当面、ダブルワークをしてはどうか」と勧める住人もいた。

 小山容疑者もその気になったようだが、待っていたのは厳しい現実だった。

「ある求人に応募したところ、求職者が殺到していて門前払いされたみたい。それでも仕事を探し続け、ようやくダブルワークが実現したところで逮捕となってしまった」(マンション住人)

 住宅ローンや管理費の支払いについて、親族に借金の相談はしなかったのだろうか。

 実家を訪ねると、容疑者の兄は、

「弟から借金の申し入れ? 何も話せない。人を殺したわけじゃないんだから別の取材したら。もう来ないでよ」

 と口を閉ざした。

 容疑者を知る実家周辺の住民によると、子どもの頃は近所の子どもたちから“ちいにいちゃん”と呼ばれ慕われていたという。

「コロナで追い込まれたんでしょうよ。もとはそんなに悪い人間じゃなかった」

 目の不自由な高齢女性を狙った犯行態様は悪質というほかない。関係者によると、被害女性は全盲ではなく、ここ数年、視力が著しく悪化していたようだ。隣宅のため面識があった可能性は高く、弱みにつけ込んで人相を判別されないようにジャンパーをかぶせたとも考えられる。

 被害女性に取材を申し込むと、

「まだお話できる気持ちになれません」

 とショックを引きずっている様子だった。

 難クセをつけまくってきた男が、そんなことを言っていられない立場に追い込まれたとき、選んだ手は最低最悪だった。

◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)

〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する