押しつけず、否定しない支援の中身

 今年4月10日。筆者は坂本さんの歌舞伎町での夜回り活動に同行した。

 最初の作業は、歌舞伎町の喫茶店に入り、約50人分のマスク、使い捨てカイロ、クレンジングジェル、ハンドジェルなどに両面テープでメッセージ・カードを貼りつけることだ。これだけで1時間はかかる。

 すべての荷物を詰め込んだ重い鞄を肩に下げると「行きましょう」と、坂本さんは歩き出した。

歌舞伎町で女性たちに配るカイロ、ハンドジェルなどの袋詰め作業を行う坂本さん
【写真】坂本さんが配布するカイロに付ける「お話しを聞かせてください」のメッセージ

 まず交番に挨拶をしてから行動開始となるが、歩き始めてすぐ、ビルの暗がりでたたずんでいた40代とおぼしき女性が坂本さんを見ると「久しぶり」と声をかけた。「今日は寒いね。どうぞ」と差し出したカイロやマスクを女性は「ありがとう」と受け取り、雑談を始めた。家庭に問題があり、生きるため歌舞伎町に立ち客をとっている。

 昨年知り合ったという20代女性も、坂本さんに「こんにちは。ねえ、聞いて」と話しかけてきた。相談ではなく、恋人の動向を伝えたいだけ。それでも坂本さんは最後まで話に付き合う。

「彼女は誰かに話を聞いてもらいたいんですね」

 2人組で歩いていた女性は、気づかずに通り過ぎようとする坂本さんを逆に呼び止め、「マスクちょうだい」と話しかけた。

 坂本さんによれば、今、こうして普通に話せる関係になった女性は約30人いる。

 初めて見る女性もいた。表情が固い。坂本さんが「こんばんは。マスク使いませんか」と声をかけても、小さく首を横に振るだけで拒絶した。コロナで風俗店での収入も激減した女性たちの一部は歌舞伎町に流れてきては、店などを介さず個人で客をとる「直引き売春」をするというが、そのひとりかもしれないと坂本さんは想像する。初めて会った女性が、こういう素っ気ない反応を見せることは珍しくない。

時間をかけて僕の存在を認めてもらうしかないです。このおっさんなら話しても大丈夫だろうと思ってくれるまで、ここを歩くしかない

 坂本さんの基本姿勢は、とにかく「否定しない」ことだ。なかには「死にたい」と連絡してくる女性も複数いて、真夜中に電話対応することも珍しくないが、坂本さんはどんな電話も否定しない。

今の彼女たちと向き合うことが大切です。路上に立つ子は、問題を抱えていても声を上げられないし、行政の目も届かない場所にいる。そういう子たちは、自己責任論の強いこの日本においては誰からも共感されません。でも、そうではない大人もいるんだとわかってもらいたいんです

最初の休業要請が出た直後の歌舞伎町。客足が減り、性産業で働く女性たちにも打撃が

 気づけば、立っている女性たちを、数十メートル離れた場所からじっと見ている男性がいた。

「品定めですね。なかには、すぐ近くで上から下まで舐めるように見て、値段交渉する男もいます」

 路上に立っている女性にすれば、自分たちの前に現れるのは「性欲処理をしたい男」だけ。だが、坂本さんは、「あなたをひとりの人間として見る普通のおじさん」として現れた。

 この姿に感銘したのが、警備会社時代の元同僚である前出・田口さんだ。田口さんは坂本さんの退職後も連絡を取り合い、昨年、歌舞伎町で一緒に食事をした。そのとき、せっかくの機会だからと夜回りの同行を申し出た。歌舞伎町のなかでも薄暗い2丁目を歩くのは怖かった。だが、そのなかで、女性たちと確かな信頼関係でつながっている坂本さんの姿に「本物だ」と感じた。

退職された後は、はたしてどういう活動をしているのか気になっていました。私見ですが、収入が確保されないと、ボランティア活動って長続きしないと思うんです。でも坂本さんは、昼間は別の仕事をしながら、夜はずっと女の子たちに声をかけ続けている。坂本さんが出世を蹴ってまで、仕事を辞めてまでやりたかったのはこれだったのかと感銘しました」(田口さん)