拳銃を突きつけられて、ホールドアップ。

「命が惜しければ、金を出せ」

 日本では、なかなかない話。でも海外旅行では、国によっては、ありえない話ではありません。そんなとき、いったいどう対処すればいいのでしょうか?

「50ドルが命の値段です!」

 私がかつて、1986年に行われた『第10回アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ系)に参加し、アメリカへ行ったときのこと。

 ハワイのチェックポイントで勝ち抜いてアメリカ本土に飛ぶことが決まった挑戦者たちに対して、番組スタッフから、およそ次のような注意がありました。

「皆さんは、これからアメリカ本土に上陸しますが、本土は観光地のハワイと違って、危険なことがたくさんあります。裏道に入ったら、昼間でも、拳銃を突きつけられてホールドアップされても不思議はありません。皆さんの誰かにもしものことがあったら、この番組は終わります。ですから、財布のなかに最低50ドルくらい入れておいて、いざというときは、財布ごと相手にあげてください。そうすれば、たぶん命は助かります。50ドルが命の値段です!

 この注意が本当のことなのか、本土行きが決まって浮かれている出場者たちの気を引き締めるための「おどかし」だったのかはわかりません。

 でも、この「命の値段が50ドル」というフレーズは、やけに印象に残りました。

生まれて初めての「ホールドアップ」!

 鹿児島に、「走る冒険家」こと、Pon(ぽん)ちゃんという女性がいます。本名は岩元みささんといい、生まれは1993年。

 もともと陸上競技をやっていて、高校を卒業後「私自身が挑戦する姿で、周囲の人を勇気づけたい!」と考え、冒険家になった方です。

 日本で開催されるマラソンだけでなく、世界一過酷と言われる『サハラマラソン』や『イラニアンシルクロードウルトラマラソン』などにも参加されています。2018年の『イラニアンシルクロードウルトラマラソン』では230キロを走破して、日本人初の完走者として話題になったこともあります。

 このPonちゃん。南アフリカのケープタウンで、現地人の男性にナイフをつきつけられて、「money!」とお金を要求されたことがあるそうです。

 治安の悪い国に行くこともある冒険家ですから、「いつかはホールドアップに遭遇するかもしれない」と覚悟はしていました。しかし、実際にそうなってみると、怖い……。冷静を装ったけれど、本当に怖かったそうです。

 おとなしくお金を渡せば、命は助かるかもしれません。しかし、Ponちゃんの頭のなかに、怖いながらも、こんな思いが浮かんできたのです。

(ここで私がお金を渡してしまったら、日本からの旅行者が、また同じ目に遭うかもしれない。そして、この人はこれからも同じ手段で、日本人やアジアの人たちからお金を奪い続けて生きていくことになるかもしれない。それは、どっちも嫌だ!)

 生まれて初めての「ホールドアップ」に恐怖を感じながらも、Ponちゃんはそう考えたのです。