ナイフをつきつける相手に伝えた言葉

 そんなことを考える間も、ナイフはずっと右の脇腹に突きつけられたまま。まさに絶体絶命。そのとき。

(この人は、きっと、愛が足りていない)

 Ponちゃんは、そう感じました。そして、携帯の翻訳機能を使って、こんな言葉を相手に伝えたのです。

「私は日本人です。日本人はアフリカ人のことが大好きです。私は、あなたと友だちになりたい」

 意外な言葉に驚く相手。すぐには受け入れられない様子。

 しかし、その後、何度か言葉をやりとりするうちに、相手は突きつけていたナイフをおろして、携帯にこんな言葉を打ち込んでくれたのです。

「Sorry」

(よかった! 心が通じた!)

 安心したPonちゃんは思いました。

(ここでこのままお別れしたら、この人は、あとから「あのときはうまく言いくるめられてしまった」と思うかもしれない……それも嫌だな……)

 そこで、提案しました。

「友だちになってくれてありがとう。ナイフをおろしてくれてありがとう。友だちになった記念に、一緒に買い物に行きましょう。あなたは、何が欲しいのですか?」

 聞けば、その男性。本当にお金がなくて困っていて、赤ちゃん用のオムツが欲しいと。Ponちゃんは「これは、友だちになった記念だからね」と念押しをしたあと、2人でオムツを買いに行き、仲よくお別れしたそうです。

 なんて素敵なホールドアップの話でしょうか!

 Ponちゃんは言っています。

「相手を脅して奪うのではなく、仲よくなって助け合うという関係性を、地球で生きていくみんなが大切にしていけたら、世界は平和に向かっていくと信じています」

 この話を聞いて思いました。

「本当にお金に困ったときは、人差し指を相手に向けて、ホールドアップのまねをする。それをされた相手は、“好意としてあげられる額”のお金を黙って渡してあげなくてはならない」

 そんな慣習を世界中で「約束ごと」にしたら、世界中から「物騒(ぶっそう)な本物のホールドアップ」がなくなるのではないか?

 ……と、そんな夢のようなことを考えてしまいました。

(取材・文/西沢泰生)


【PROFILE】
走る冒険家Ponちゃん(岩元みさ) ◎1993年7月4日生まれ。鹿児島県出身。『サハラマラソン(237km)』『ナミブレース(251km)』などで完走。2018年『イランシルクロードウルトラマラソン(230km)』では、最高気温63.1℃の中、日本人初完走。モチベーショナルスピーカーとして講演活動もしている。
『走る冒険家Ponちゃん公式チャンネル』→https://m.youtube.com/channel/UCz3Q8RMZ9L2_papwS_ZW0aQ

【著者PROFILE】
にしざわ・やすお ◎作家・ライター・出版プロデューサー。子どものころからの読書好き。『アタック25』『クイズタイムショック』などのクイズ番組に出演し優勝。『第10回アメリカ横断ウルトラクイズ』ではニューヨークまで進み準優勝を果たす。就職後は約20年間、社内報の編集を担当。その間、社長秘書も兼任。現在は作家として独立。主な著書:『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)/『伝説のクイズ王も驚いた予想を超えてくる雑学の本』(三笠書房)/『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)ほか。

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