店長の家での飲み会で起きた悲劇

 しかし、コロナの蔓延で状況は一変。2020年4月、緊急事態宣言が発令されたため、居酒屋は休業状態に。店長は「また客が戻ったときに頼むよ」と言うものの、先月に作成したシフト表は白紙に戻り、4月の娘さんの出勤日はゼロ。「頭を抱えました。娘は働き口を失い、バイト代が途絶えてしまったんです」。娘さんは家庭教師の登録をし、リモートで生徒を教えながら、かろうじて各種の「支払い」を続けていました。

 5月末に宣言が解除されたものの、アルコールの時短提供が要請され、弁当の販売、ランチの営業、そしてデリバリーの利用やテイクアウトの開始で糊口をしのぐのが精一杯。一方、大学はリモート授業へ移行しました。「娘も寂しかったと思います。この3か月間、私以外の誰とも会っていなかったし、ほとんど外出もしていなかったので」と回顧します。

 そんな8月、娘さんにお誘いのLINEが届いたのです。「久々に会おう」と。送り主は店長でした。場所は店長の家。バイト仲間6人が参加し、食事とお酒を持ち込み、楽しく過ごすのだそう。「娘はよろこんでOKしました。バイト仲間と会えない日々が続いていましたから」と口にします。

 そして当日。参加してみると、会の趣旨はただの飲み会ではなく、店長の送別会。居酒屋は8月末で正式に閉店する運びになり、皆にとって思い出の場所は完全に消滅。寂しい気持ちと相まって、その会はたいそう盛り上がったそう。「娘がお酒を飲むのは、宣言が解除されてから初めてだったんです」と言います。

 4か月ぶりのアルコールで酔いが回るのが早かったのでしょうか。4杯目のワインまで覚えているけれど、それ以降の記憶が曖昧。そして気がついたとき、時計は夜中の2時を回っており、一緒にいたはずの同僚はおらず、そこには店長たった1人。しかも、娘さんはベットの上で布団をかけられており、衣服を何も着けていない状態でした。

 なぜ、一糸まとわぬ姿なのか。混乱して動揺する娘さんに店長が教えてくれました。「ごめん。最後の思い出だから」と性交渉に及んだようなのです。こうして記憶を失った彼女と身体の関係を結んだことが明らかに。

 2人はどのような関係だったのでしょうか?香澄さんは「店長と付き合ってはいなかったようです」と証言します。娘さんと店長は上司と部下で、恋人同士ではありません。そして場所はラブホテルではなく店長の家。娘さんは飲み会だと思って足を踏み入れており、そういうつもりではありませんでした。さらに娘さんは酩酊状態で、店長の行為を拒むことはもちろん、気持ちを伝えることすら叶いませんでした。

 彼氏ではない男性が知らない間に肉体関係を強要したのだから、香蓮さんは「レイプされた」と警察に通報することも可能といえば可能でした。「あとで娘に聞いたんですが、店長のことが好きだったみたいなんです。だから問いたださなかったって……」と教えてくれました。

 ここから関係が始まればいい……店長が告白し、交際を開始し、恋人同士になれたらいいと期待していたのです。だから、娘さんは「びっくりしました。今までお世話になりました。ありがとうございました」と言い残すと、店長の家を後にしたのです。店長が避妊したかどうかを確認せずに。

 娘さんにとっての地獄は当日ではなく後日でした。予定日から3週間が経過しても生理がこなかったのです。急いでドラックストアで買ってきた検査キットを試したところ、結果は陽性。翌日、産婦人科に行くと「おめでとうございます」と言われ、妊娠の事実が確かなものに。