経験を生かしてエンブレムの模様を彫りました

◆400年の匠の技力強く繊細な一枚・鎌倉彫【神奈川県】

 プラスチックにはない、温もりがあり、落ち着いた漆の深い色合いとカツラの板に彫られた模様の美しい陰影。それが神奈川県の伝統工芸品『鎌倉彫』の魅力だ。

 起源は鎌倉時代。仏像彫刻の流れをベースにした伝統的な技術は約800年もの間、受け継がれてきた。現在は代表的なお盆のほかに、汁椀や手鏡など日常使いできるアイテムも展開している。

うちでいちばん腕のいい60代の職人が商品用に特別に彫刻刀を研ぎ、これまでの経験を生かしてエンブレムの模様を彫りました

大会エンブレムがあしらわれた鎌倉彫のお盆。贈り物にもおすすめ
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 そう話すのは鎌倉彫の専門店『山水堂』の小泉五郎さん。

 実はこの精巧さこそが重要なポイントなのだ。大会組織委員会はライセンス商品につけるエンブレムの仕上がりに、正確さを求めており、鎌倉彫にかかわらず、手彫りは原則NG。寸分の狂いもなく、彫るのは至難の業なのだ。

 しかし前述の職人は彫刻刀の角度、彫る力の入れ方を研究し、それを成し遂げ、特別に認められた。彫りの次に重要な漆の塗り方にもこだわった。この工程は70代、30代の親子の職人が担当し、美しい陰影を作り上げた。お盆は2組の熟練の匠の技が光る

「技術力はもちろんですが、エンブレムと余白のバランスなど美しさも計算しています。職人たちは自分の技術や腕前をアピールでき、自信にもつながったと話していました。思い出に残るよい仕事をした、と満足しています」

山水堂の小泉さん。鎌倉彫のさまざまな使い方も提案している

 だが、業界は次世代への技術の継承や販路拡大などの課題を抱えている。

「オリンピックは鎌倉彫を国外へPRできるいい機会、あてにしていた部分もありました。ですが、こうした状況下では不可能ですね……」

 にもかかわらず小泉さんの表情は晴れやかだ。 

苦境から伝統を守りながら新しい感覚を持って商品開発をする大切さも教えられました。今は気持ちを切り替え、自分たちの仕事を見直すいい機会になったと思い、前に進んでいます

 伝統工芸品は使い込むほどに味が出て、長い年月使うことができるものも多い。親から子へ、子から孫へ。東京2020大会の思い出を日常で伝える“バトン”になるかもしれない。