松本さんが「“バラエティ”って言うくらいですから、幕の内弁当みたいなもんじゃない? その中のその要素(痛みを伴う笑い)は、割とメインディッシュのときがあったりするから『けっこうボリューム感はなくなっちゃうかな』と思いますね」「前OKやったものが、今度やっぱそれもダメみたいな……これどこまでいくのかなとか思います」と語っていたことからも難しい状況がうかがえます。

 ただ、表現の幅がせまくなってしまう理由は、BPOからの意見や見解だけではありません。「これはイジメや差別とみなされないか」「それもハラスメントにあたるのではないか」「スポンサーに迷惑をかけてはいけない」「BPOの審議入りだけは避けたい」などの観点から自主規制が進んでいることも原因の1つです。

松本だから表現の幅を広げられる

 そんな「表現の幅がせまくなっていく」という流れにあらがうように制作されたのが、前述したTBSフジテレビの特番。実験的な企画で新たな笑いを模索する「まっちゃんねる」「審査員長・松本人志」、編集ができない長時間生放送の「お笑いの日」「FNSラフ&ミュージック」、予想のつかない組み合わせのトーク番組「まつもtoなかい~マッチングな夜~」、過激な映像を含む「クレイジージャーニー2時間SP」と表現の幅を再び広げるようなオリジナリティあふれる内容が目立ちます。

「松本さんがメインの特番なら、これくらいの内容でも“笑い”として受け入れてもらえるのでは」「松本さんの特番なら、これくらい攻めた企画でも通りやすい」というのが作り手たちの本音。たとえば「FNSラフ&ミュージック」で松本さんは、「ふだん共演の少ない笑福亭鶴瓶さん、内村光良さん、爆笑問題、ナインティナインらと生放送でトークする」という攻めた企画に応じる懐の深さを見せました。近年のバラエティにはなかったシーンであり、かつてのような臨場感や自由があったから、あれほどツイッター上が盛り上がったのでしょう。

 TBSフジテレビには、松本さんと同じ時代にバラエティを作り上げてきた局員が多く、これまで彼らへの取材の際、現状を憂う声を何度となく聞いてきました。また、若手・中堅にも「そういうバラエティを見て育ち、自分も作りたくて入社した」という局員が多く、現状にジレンマを抱えていたようです。