『社会部』と『政治部』どちらがつくるかで変わる番組

『社会部』育ちの池上氏の登場まで、各局の選挙特番は『政治部』が仕切るものだった。政治部が中心となってつくる選挙特番がどんなものかというと、NHKの特番が典型例である。あまり面白くならない。そもそも面白くしようとしていない。

 2つの部の違いを簡単に説明すると、政策や政局を取材するのが政治部。一方、政治家の犯罪を取材するのが社会部だ。犯罪とは汚職などである。

 だから、どちらの部が仕切るかで、選挙特番の性質はまったく違ってくる。政治部は政治家とのパイプを太くするのが仕事だが、社会部は悪さをする政治家を攻めるのが役目だからだ。

 社会部育ちの池上氏が政治家をバッサバッサと斬るのは半ば当然のことなのである。

 選挙特番自体、昔と今では違う。1980年代までは特別に用意された別室で、専任のスタッフが他局の特番をこっそり見ていた。カンニングをしていたのだ。

 より正確に言うと、見ていたのは他局の「当確」。今と違って出口調査がなかったから、NHKを除くと、当確を打つのが不安だったのだ。当確を打ち間違えると、監督官庁の郵政省(現総務省)から指導を受けかねない。もちろん視聴者の信用も失う。

 さて、ここで1つの疑問が生じる。「選挙特番の制作準備はいつから始まるのか?」。今回の衆院選はほぼ任期満了だが、どの時期から準備が始まっていたのだろう。

 世間の選挙ムードが色濃くなったのは10月4日の岸田文雄首相(64)の誕生前後だが、そこから準備を始めては到底間に合わない。出口調査の用意もしなくてはならないからだ。

 では、いつ準備が始まっていたかというと、答えは“ずっとやっていた”。衆院はいつ解散になるか分からないからだ。

 もちろん、スタッフの規模は変わる。大所帯になるのは選挙時期が確実になってからだ。

 今は各局とも真面目な特番になったが、過去にはブッ飛んだものもあった。たとえば1983年12月の衆院選挙時にフジテレビが放送したのは『選挙でいいとも』である。司会はタモリ(76)。所ジョージ(66)らがゲストとして招かれた。

 1982年10月に始まった『森田一義アワー 笑っていいとも!』が人気になったのを受けて企画された。政治家が「友達の輪」をやった。バブル前夜で呑気な時代だった。

 今回の池上氏のライバルはやはりNHK出身者。テレビ朝日は10月から『報道ステーション』のキャスターに起用したばかりの大越健介氏(60)を選挙特番に登板させる。

 大越氏は政治部出身。池上氏の番組とはまったく違ったカラーになるはずだ。

 日本テレビは元NHKアナの有働由美子氏(52)と嵐・櫻井翔氏(39)に任せる。

 NHK時代の有働氏は記者ではなかったものの、専門分野を取材する際には、同期の政治部記者や社会部記者に個人的にレクチャーを受けていた。こんなアナ、まずいない。

 だから、ほかのアナとはリポートの濃さなどが違った。

 投開票日はNHK出身者によるトークバトルも見ものだ。

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立