「吉右衛門さんの4人のお子さんは、全員女性。彼の跡を継ぐ男性の後継者がいないんです。'13年2月には四女の瓔子さんが尾上菊之助さんと結婚して孫の丑之助くんが誕生しましたが、彼は尾上家の長男ですから、いずれは音羽屋を継ぎます。

 そんな状況もあったため'10年には『萬屋』の中村歌六さん、中村又五郎さんを播磨屋に呼び寄せたりもしています。しかし吉右衛門という名跡はあまりにも大きく、まだ後継者の見通しは立っていません」(前出・演劇ライター)

市川猿翁のように後継者育成を

 かつて、ふさわしい後継者がいなかったために、表舞台から消えてしまった名跡は少なくない。

「江戸時代から続く女形の名門といわれた澤村宗十郎が率いる『紀伊國屋』という屋号がありましたが、中心となっていた役者が相次いで病に倒れるなど不幸が重なり、跡継ぎにも恵まれませんでした。

 現在、屋号自体は存在していますが“宗十郎”という名跡が大きすぎるため、誰も襲名はできていません。このように名跡が受け継がれず、宙に浮いてしまっている状態のことを“空位”というのですが、吉右衛門さんの場合もそうなってしまうかもしれませんね」(同・演劇ライター)

 刻々と迫る後継者問題に、歌舞伎評論家の喜熨斗勝氏も強い危機感を抱いている。

「彼の十八番である石川五右衛門といった力強い芸を受け継ぐ人はとても希少。娘さんが嫁いだ音羽屋の門下である尾上右近さんといった方などに協力してもらってでも、吉右衛門の芸と名跡を残してほしいところです。また、二代目市川猿翁さんのように舞台に立たず、隠居して後継者育成に努めるのも1つの選択肢かもしれませんね」

 芸は受け継がれることで発展していくもの。吉右衛門という大名跡の行方は。