旅先は新しいアイテムに出会うチャンス

 宿泊先選びの重要ポイントともされてきたアメニティだが、あえて使用しない選択をする宿泊者もいるという。

「身体に使うアイテムは普段と同じものを使いたいと使い慣れたものを宿泊先に持ち込む人も増えています。“旅行先で肌トラブルを起こしたくない”という気持ちは、お客さんも宿泊施設側も同じ」

 そこで複数の国内メーカーのアメニティを用意。普段使っているものだけでなく、使ってみたいアイテムを顧客が選べるサービスの展開も広がっているという。

 村田さんは宿泊先で購入できるアメニティについて“一期一会”と言う。

「私の使っている基礎化粧品も最初は宿泊先のアメニティでした。使用後に気に入って購入したもので、もう5年も使っています。シャンプーや基礎化粧品など、旅先は新しいアイテムに出会うチャンスでもあるんです」

 また、宿泊施設とコスメブランドがタイアップしたオリジナルアメニティや、地元企業が地域の特産品を使って開発したものなどを提供するケースも増えてきたという。

「食事も地産地消、アメニティも地元の素材や企業が開発したもの、という宿も多い。地域発のアイテムは、そこから旅先の地域を知るツールにもなります」

顧客を第一に考える気概

 だが、1年半以上続くコロナ禍でホテルアメニティも煽(あお)りを受けている。

「ホテルの売店も厳しい状況が続いており、当然、弊社も影響があります」(前出・アズマ商事担当者、以下同)

 緊急事態宣言が解除されたいま挽回するチャンスか、と今度の展開について尋ねると、

私たちのお得意様である旅館、ホテル業界は厳しい状況です。なので新商品を売り込んで経営に追い打ちをかけるような展開はやめようと考えています。本当の意味でコロナが落ち着いて元の状態に戻ったら、そこから商品開発も頑張っていきたい。今は業界をサポートする精神でいたいと考えています」

 さらにはホテルや旅館に商品を納品する際、一部のアイテムについては館内で使用する分を無償で提供する取り組みも行う。

「無償提供すれば弊社の売り上げは赤字になることもあります。ですが続くコロナ禍で、館内で使用する商品を購入するのが厳しい宿もあるんです。まずは宿を私たちがサポートし、元気になっていただければと考えております」

 売り上げ度外視で顧客を第一に考える気概。そうした姿勢が長年愛される商品展開へとつながるのかもしれない。

『馬油』とともにコロナ禍を駆け抜けるため奔走は続く。

〈PROFILE〉
株式会社アズマ商事 ◎1988年創業。全国の旅館、ホテルなどに向けた商品を展開。人気の馬油シリーズのほか、炭、オレンジ、柿渋、お茶など自然派コスメの開発、提供。最近のイチオシは酒粕美容パック

村田和子 ◎旅行ジャーナリスト。旅の魅力や楽しみ方を紹介するほか、各種講演や宿、地域のコンサルティングを行う。旅を通じて子どもの生きる力を育む「旅育メソッド」を発表、著書に『旅育BOOK』

初出:週刊女性2021年12月14日号/Web版は「fumufumu news」掲載