息子たちが父の再婚を承諾した理由

 そんな矢先、正幸さんが泥酔状態で駅のホームから転落するという事故が発生。たまたま電車が通過せず、車両にひかれずにすんだのは不幸中の幸いでしたが、病院に搬送されて「粉砕骨折」と診断され、手術を受け、今でも両足にはボルトが入ったまま。

 そこで筆者は息子さんたちに結婚話をする際に「介護を沙也加さんに任せると強調しましょう」と提案しました。元妻が正幸さんと縁を切ったのは離婚ではなく死別。もちろん、父親として、孫にとっての祖父として最低限の関係は保っているものの、子にとって父親への思い入れは母親より薄いでしょう。しかも正幸さんはまだ60歳手前。お子さんたちが介護を担うと、父親に対して「身体が元気ではないのに頭だけ元気だ」と嫌味を言われるケースは多々あります。

 つまり、いまの段階で子どもたちは正幸さんの世話や看病、介護を押し付けられたくないのではないか。筆者はそう思ったのです。実際のところ、正幸さんは子どもたちではなく、沙也加さんに介護されることを望んでいるのです。

 筆者のアドバイスを聞いた正幸さんはようやく重い腰を上げ、「一緒になりたい人がいる」と息子さんと娘さんにカミングアウト。そうすると息子さんたちは「親父の面倒をみたくない」と正幸さんを引き取りたくない様子だったそうで、「(沙也加さんが)責任をもって将来の介護をやってくれるなら」と再婚を渋々、承諾してくれたそう。こうして正幸さんは親族と揉めることなく、万が一の場合、沙也加さんを金銭的に守る準備ができたのです。とはいえ息子さんたちに堂々と「面倒をみたくない」と言い切られたのはショックのようでしたが。

 本来、婚姻は個人の自由です。確かに証人の欄はありますが、これは必ずしも親戚ではなく、友人でも同僚でも構いません。親族の賛成は不要とはいえ、角を立てないほうが望ましいですから、最低限の根回しが必要です。沙也加さんにとっての再婚のメリットは、正幸さんが元気なうちは生活保証、亡くなった後は遺産相続です。一方、デメリットは正幸さんの世話や介護、看病等をする「義務」が発生することです。親族が再婚に反対するのは自分たちのメリットにしか目がいかないからです。メリット、デメリットの両方を説明することが肝要です。

 会社員の場合、55歳~58歳で役職定年を迎えることが多く、年収が下がる代わりに仕事が減り、時間に余裕が生まれます。そのため、老後の生活を誰と過ごすのかを検討するようになります。バツイチ男性の場合、交際中の彼女と一緒になるか、新しい彼女を探すか、ひとりで自由に暮らすかなど、選択肢はさまざま。人生100年時代において定年後でも残りは40年もありますから、悔いのない人生を送るために再婚を考えている男性も多いのです。

 ところで今年5月、「紀州のドン・ファン」こと野崎幸助氏(享年77)の55歳年下の元妻が殺害容疑で起訴されたのは、まだ記憶に新しいところ。一般人の場合、事件に発展することは稀有なので、心配しすぎることはありません。しかし、家族間でトラブルが起こる可能性を秘めているので、後妻を守るために十分な準備をし、幸せな老後を迎えてください。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/