正幸さんにとって悩みの種は前妻との間の息子(34歳)と娘(32歳)の関係。「彼女の籍を入れたいという頼みをのらりくらりと交わし、今の今までずるずるとしてしまいました……」と懺悔しますが、もし沙也加さんと籍を入れた場合、息子と娘の相続分は半分に減りますし、母(前妻)を裏切ったと感じるでしょう。さらに正幸さんは孫との交流が途絶えることを心配していたのです。

 一方、沙也加さんは正幸さんをどう思っているのでしょうか?「うつ病で苦しむ私を救ってくれたのが彼です。悩みや迷いを癒やしてくれます!」とぞっこんの様子。

 バツイチの沙也加さんは、前夫との結婚生活、そして離婚交渉で負った傷が大きく、心身のバランスを崩し、十分な収入を稼げずにいたのです。そんな沙也加さんにとって正幸さんの煮え切らない言動は不安を煽っていました。沙也加さんもかわいいが、お孫さんもかわいい。そんなふうに八方美人な態度をとり続け、今に至ったのです。

離婚のタイミングは「今しかない」

 籍を入れない事実婚と、入れる法律婚は大きく異なります。法律婚の場合、戸籍上の妻は2分の1の法定相続分(法律で決められた相続分)を有しており、生命保険の受取人になることは問題なく、遺族年金も受け取ることができます。

 一方、事実婚の場合、未入籍の彼女に法定相続権はありません。さらに無条件で受取人になったり、遺族年金を受給したりすることはできず、煩雑な書類を揃え、戸籍上の妻と同等だと証明しなければなりません。

 正幸さんから再婚のタイミングについて相談を受けた筆者は「今しかありませんよ」と助言しました。もし正幸さんが退職済みなら話は別です。すでに退職金や厚生年金の受取額が確定しています。息子たちが年金を管理する場合、相続が発生した場合の具体的な金額を計算できます。

 しかし、正幸さんはまだ現役です。受け取り額が確定していないので再婚にともなう減少額を計算できません。もちろん、子が親の世話をするかどうかは遺産の大小に左右されるところは大きいです。非情な言い方ですが、まとまった遺産があるなら介護してもいい、たいした遺産がないなら介護したくないということです。現在、正幸さんは58歳で子どもたちは正幸さんの財産を計算しにくい状況ですから、定年後ではなく定年前のいまのうちに離婚するほうが適切でしょう。

 さらに正幸さんは昨年、小脳梗塞で倒れたそう。命に別状はないものの、現在も血圧が高いので医者からは「いつ何があってもおかしくはない」と言われているそうですが、それだけではありません。3年前、糖尿病と診断され、現在も治療中。現在、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は7.4%、随時血糖値は161mg/dlと極めて悪い数値で、動脈硬化による脳卒中や心臓病で突然、命を落とす危険が常にあります。糖尿病の合併症は脳卒中や心臓病だけではありません。例えば、網膜症により失明したり、神経障害や血管障害で足を切断したり、肝臓の機能低下による人工透析が必要になる可能性があるそう。