母娘のカウンセリングは、約8か月にも及んだ。

「自分の幼少期のことを語り始めたときから、母は変わっていったんです。祖母も世間を気にする人で、母自身もそんな祖母の価値観に縛られて生きてきたとわかりました。母にも子ども時代があって、母親である前にひとりの女性だったのだと理解できました」

母からの謝罪でお互いに解放された

 カウンセリングが終了した後、母親から「私があんな育て方をしなかったら……、ごめんね」と謝られたときは、「お母さんも大変だったね」という言葉が素直に出た。あの瞬間は今でも宝物だ。

 一方、母親が長年とらわれていた価値観から自由になることで、東さん自身もより生きやすくなったと感じた。

「人生において何を選ぶかは私の自由だし、私のやることを母がどう受け止めるかも気にすることがなくなりました。つまり、母を信用し、どんな私でも応援してくれるはずという自信が持てたんです」

 今、80代になった母親とは、これまでにないほど良好な関係だ。もちろん、母親のすべてを理解しているというわけではないが、モヤモヤする会話があったときは、母親ではなく“親戚のオバちゃん”の意見だと思って聞き流す術も身につけた。お互いの終末期医療についても話した。

「家族って、違う人間の集合体なんです。だから、わかり合えると思うことが大間違い。

 家族がそれぞれの幸せを応援し合っていればいい、お互いの人生を邪魔せず見守るだけで十分なんです。そのためには、まず自分が幸せになること。何かを我慢したり、諦めると親を憎むことになる。

 一時は親を裏切るような形になったとしても、自分の幸せを追求したほうが親を恨まなくてすむと思います」

東さんからアドバイス

■自分史を聞いてみよう……自分が生まれる前の母親を知ることで、母親ではなくひとりの女性として冷静に捉えられる

■親戚のオバちゃんと思ってみて……親だからこそ言動に心がザワつきストレスに。親戚の言葉だと思えば、客観的に受け取りやすい

■“もしも”の話は晴れた昼間に……終末期の話は気持ちが暗くならない、楽しく明るい日を選んで。おいしいごはんを食べながらでも

お話を伺ったのは……東ちづるさん●俳優。プロボノエンタメ団体「Get in touch」代表。メディアで活躍するかたわら、骨髄バンクなどのボランティアを29年間続ける。著書に『〈私〉はなぜカウンセリングを受けたのか~「いい人、やめた!」母と娘の挑戦』(マガジンハウス)

(取材・文/河端直子)