いちばんの思い出は、地方公演へ行ったときのこと。

「地方のイベンターが私を“ボーヤ”と乱暴に呼んだんです。そしたら西郷さんが“彼にはちゃんと名前があるんだからそんなふうに呼ばないでください”って毅然と言ってくれて……。スターなのに付き人も尊重してくれるんだと感動しましたよ」(Aさん)

 西郷さんの分け隔てない姿勢は、生涯変わらなかったようだ。晩年まで交流があった放送作家の須田泰成氏も、彼との有意義な時間を懐かしむ。

がん治療のために総額1000万円

「酒場で若い人たちに人生相談をされていましたね。どんな人ともフラットに接していて、自分の話より人の話を聞く時間が長いんです。西郷さんのアドバイスを受けてから、仕事が来るようになり、今や会社の経営者になった人もいます。決めゼリフは“楽しんでやればOK!”と、右手でサムアップのポーズをするのがカッコよかった」

 ボランティア精神も強かったようだ。

「私は'11年に発生した東日本大震災の支援活動をしていたのですが、西郷さんも協力してくれて、東北道が復旧した翌日に支援物資を持ってきてくれました。その後も、ことあるごとに被災地の避難所へ足りないものを提供してくれたんです」(須田氏)

'11年の東日本大震災の被災地に支援物資を準備する西郷輝彦さん
'11年の東日本大震災の被災地に支援物資を準備する西郷輝彦さん
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 そんな性格だったからか、家族にも愛されていた。

「'72年に辺見マリさんと電撃結婚。女優のえみりさんら2人のお子さんに恵まれました。'81年に離婚後、'90年には19歳年下の一般女性と再婚し、三姉妹が誕生しています。籍が分かれてもマリさんやえみりさんとの仲は良好でした」(スポーツ紙記者)

 充実した晩年を迎えるはずだったが、'11年に前立腺がんが判明。全摘出手術を行い快方に向かうも、'17年に再発。完治を目指し'21年5月にはオーストラリアに渡り、日本で未承認の“PSMA治療”を受けることになった。

 聞き慣れない治療法だが、どのようなものなのか。『くぼたクリニック松戸五香』院長の窪田徹矢氏に話を聞くと、

「'17年にドイツで確立されたばかりの治療法です。点滴でがん細胞のみに効果がある放射性物質を投与します。一般的な抗がん剤治療で起きるような副作用がなく、治療は15分間ほど。点滴を打った後は入院せず帰宅できますが、劇的な効果が期待できるわけではありません。そして、1回の点滴で150万から200万円がかかります。滞在費やコーディネート代と合わせると、総額1000万円はかかったでしょう」(窪田氏)