菊は白のみ、遺影はモノクロ

 多くの葬儀に携わる中で、Sさんは世知辛い思いをすることもあるという。

「生活保護を受けていた故人様の葬儀は、葬儀料を税金でまかなうことになるので条件がすごく厳しいんです。細かい点は行政によって違うと思うのですが、私が住む地域では、お花もお棺もすべてが最低ランクです。お花は本数が決まっていて、色のついたお花を使うことはできずすべて白い菊。

 一番世知辛いのは、遺影がモノクロだという点です。100円、200円もあればカラー写真にできるのですが、すべて最低ランクなのでカラー写真はNGなんです」

 葬儀の際にはトラブルが生じることもあり、特に料金に関しての問題が多いそうだ。

「初七日が過ぎたら葬儀料金の請求書をお送りするのですが、バックレてしまうお客様もいらっしゃいます。

 一昔前は二世帯、三世帯で同居するのが一般的でしたから、請求書は故人様のお宅にお届けすることが多かったんです。でも、今は故人様とご家族様が離れて暮らしていることがほとんどです。

 たとえば、喪主様が独身でひとり暮らしをしていた場合、引っ越しをされてしまったら終わりです。申込書にはご住所などを書いてもらいますが、うその住所を書かれることもあります。こうした事情によって葬儀料金が未収になることも少なくはありません」

 最近は低価格でこじんまりとした葬儀をうたうサービスが増えているが、実は思わぬ落とし穴が。

「こじんまりとした葬儀をうたっているのは、葬儀会社ではなく仲介業者なんです。仲介業者はマージンを抜いて、提携している葬儀会社に実務を引き渡します。うちの会社でもそうした葬儀を執り行うことがあるのですが、トラブルが生じることもあります」

 というのも、実際の葬儀と遺族がイメージする葬儀にはかなりの差があることが多く、それがトラブルの原因になることも。

「たとえば、10万円以下の葬儀というのは、一番小さなお部屋で故人様をお預かりして一晩過ごしていただき、翌日、朝一番で火葬場に搬送する、いわゆる直葬というものです。お寺さんなどの宗教家が立ち会うこともなければ、お通夜も告別式もありません。ご遺族様は仲介業者から、そうした説明を受けているはずなんです。

 にもかかわらず、ご住職がいらしてお経をあげたり、お通夜や告別式が営まれると思っていらっしゃるご遺族様は少なくなく、その場で怒り出す方も珍しくはありません。激昂したご遺族様から、『葬儀社の社員として宗教家がいない葬儀を葬式と呼べるのか、その見識を問う!』と追及されたこともあります」

 葬儀社のスタッフとしての本音はどうなのだろうか。

「『10万円以下でそこまでできるわけないじゃん』というのが正直なところです。

 そもそも、葬儀会社が代金として請求する金額の中には、お寺さんのお布施代やお車代は入っていないんです。お布施代やお車代にかかる何十万円という金額は、葬儀代金とは別にご遺族様が用意されるものなんです。

 こうした事情をお分かりになっていないと、『10万円で全部込み込みでいける!』と解釈し、仲介業者が展開するこじんまりとした葬儀に申し込みをしてしまうんです。特に最近は葬儀の新しいサービスが次々と出現しているので、余計に混乱してしまうのだと思います」

 葬儀は一度きりのもの。やり直しがきかないだけに安易に金額だけで判断せず、葬儀の内容をしっかりと吟味する姿勢と余裕が大切なのかもしれない。

熊谷あづさ
ライター。猫健康管理士。1971年宮城県生まれ。埼玉大学教育学部卒業後、会社員を経てライターに転身。週刊誌や月刊誌、健康誌を中心に医療・健康、食、本、人物インタビューなどの取材・執筆を手がける。著書に『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)。ブログ:「書きもの屋さん」、Twitter:@kumagai_azusa、Instagram:@kumagai.azusa