というのも、今は亡きコラムニストのナンシー関さん(享年39)は1991年に、芸人たちから畏敬されるたけしの特異なカリスマ性に言及。それゆえ、若手にとっては「たけしを笑わせること」が至福につながり、どんなムチャもやれてしまうと分析した。その構造に誰よりハマったのが、ダチョウ倶楽部だったというわけだ。

ビートたけしと同じ構図の有吉

 そんな構造を現在、活用しているのが有吉である。『有吉の壁』(日本テレビ系)は「有吉を笑わせること」が芸人としてのステータスを高めるという前提によって成立している。有吉もまた、芸人に畏敬され、その気にさせてしまう存在なのだ。

 そこには、彼が「地獄を見た」と振り返る一発屋時代からの大復活を遂げたことが大きい。と同時に、芸能界の浮き沈みを味わったおかげで、ああ見えて情も厚いというキャラが共有されている、というのもある。

 これもまた、フライデー襲撃事件やバイク事故による大ケガといった修羅場をくぐり抜け、面倒見のよさでも知られるたけしとの共通点だ。

 とはいえ、芸人にも一般常識が求められる時代にカリスマであり続けるのは難しい。それこそ、恩人の葬式で顔に熱湯をブッかけても許されるような、それで笑いを生むことまで期待される生き方だからだ。

 まさに「中々ハードな注文」だが、コロナ禍にも負けず『有吉の壁』のような番組を成功させた彼ならできたのではないか。また、そういう生き方を目指すことが、上島さんへの恩返しにもなるはずだ。

PROFILE●宝泉薫(ほうせん・かおる)●アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)