おむすびは、介護中に歌子さんが喜んで食べてくれた思い出の一品 撮影/齋藤周造
おむすびは、介護中に歌子さんが喜んで食べてくれた思い出の一品 撮影/齋藤周造
【写真】『銀座ろくさん亭』に来店された秩父宮妃殿下

「僕が家に帰ると、歌子がベッドから手を差し伸べて待ってくれていてね。うれしかったなあ。その光景を思い出すと、今でも涙が出る。

 だけど、死んだからって姿形が見えないだけで、今もそばにいると思うね。だからよくおしゃべりしています。“今日お客さまにもらった花だよ。きれいだね”って。心が通い合っていれば、永遠だなと思うわね」

新しい料理を生み出したい意欲

 現在は、先述の総料理長の田中さんをして、「おやじさんは今がいちばん、感性が鋭くなっているんじゃないですか」と言わしめるほど。根底にはやはり新しい料理を生み出したいという意欲がある。

「今まで山ウドといえば皮を剥いて使っていたけど、皮が美味しいんだね。そのままボンと油に放り込んで、切り出して。そこに、振り塩と焼いた昆布、味を中和するのに粉ミルクをちょっと入れたものを振りかけると美味しいよ。料理は、ごてごて難しく考えないほうがいいね」

 動画の視聴者が普段どんな料理を食べているかを知るため、スーパーの惣菜コーナーのチェックも怠らない。自分ははたしてこの値段で出すことができるだろうかと、学ぶことしきりなのだという。

「この年になっても覚えることがたくさんあるというのがこの世の楽しいところ。それに、何はこうだなんて思い込みは捨てたほうがいいね。あると世界が狭くなるだけだから。それは料理だけではなく、ね」

 そんな道場さんに、今興味がある食材や挑戦したい料理はあるのか聞いてみた。

「この季節は山菜だね。何にしても、今僕の目の前に食材が現れてこないと。それで、何かが現れたら、僕は僕なりに、五味五法(食材や調味料と調理法の組み合わせのこと)で立ち向かうんじゃないかな」

『91歳のユーチューバー 後世に伝えたい! 家庭料理と人生のコツ』道場六三郎著 ※記事の中の画像をクリックするとAmazonの購入ページにジャンプします

〈取材・文/山脇麻生〉

 やまわき・まお ライター、編集者。漫画誌編集長を経て'01年よりフリー。『朝日新聞』『日経エンタテインメント!』などでコミック評を執筆。また、各紙誌にて文化人・著名人のインタビューや食・酒・地域創生に関する記事を執筆。