2頭のゾウの死、後追い死さえよぎって

『アニマルワンダーリゾウト』には、2011年に開園したもうひとつの動物園『サユリワールド』がある。

映画『星になった少年』で哲夢さんを演じた柳楽。タイでの海外ロケでのひとコマ
映画『星になった少年』で哲夢さんを演じた柳楽。タイでの海外ロケでのひとコマ
【写真】エキゾチックな顔のハーフモデルとしてトップモデルだった小百合さん

「ずっと前から、大人が楽しめる動物園をつくりたいと思っていたんです。  もっと言うと、自分の庭ね。自分の家の庭にキリンがいたらステキだな、っていう発想が原点。そしたら運よく『市原ぞうの国』の、すぐ隣の土地が売りに出て、即決で買いました」

 このときのことを麻衣さんは、こう証言する。

母から内線電話がかかってきて、“土地、買っちゃったよ”って。まるでスーパーで、ニンジン買ったよ、というのと変わらない言い方(笑)。母ってそういう人なんです」

 ハハハと笑いながら小百合さんは、こう続ける。

でも即決したあとで大変な思いをするの。購入した土地は、草ぼうぼうの竹やぶですよ。スズメバチはブンブン飛んでる。防虫ネットをかぶって入ると、穴はあるし、転ぶし……。そこを更地にするだけでも、半端なく大変だったわよ」

 5年の歳月をかけて開園にこぎつけた、小百合さんの理想郷ともいえる動物園だ。中央の広場では、放し飼いのカピバラ、カンガルー、ウサギなどの草食動物が思い思いに動き回っている。人懐っこく寄ってくるウサギもいれば、人の存在など無視してボーッと静止しているカピバラも。

 何より感動するのは、キリンを至近距離で見られることだ。下のほうは柵で囲われているが、テラスの2階に上がると、キリンと同じ目線で、キリンと顔を合わせることができ、直接エサを与えることも。

『サユリワールド』では、動物と信じられないくらいの距離感で接することができる 撮影/北村史成
『サユリワールド』では、動物と信じられないくらいの距離感で接することができる 撮影/北村史成

「違う種類の動物が共存し、人と動物も共存できる、それがテーマです。自分の庭をつくりたい、が最初の動機なので、実はこんなにお客さんが来てくれるとは思いませんでした。

 普通、動物園は集客のために、お客さんの満足度を上げることに注力します。当然です。でも、『サユリワールド』の成功で、自分の満足度とお客さんの満足度は両立することがわかりました。自分が楽しめる動物園であれば、お客さんに楽しんでもらえるんです」

 順風満帆に進んできた動物園経営。しかしその矢先に、またも悲しい出来事が起きた。昨秋、2頭のゾウが腸炎で死んだのだ。

 市原ぞうの国で3頭の子を産み、動物園では世界的にも稀な乳母で、1頭をしっかりと育てた偉大な母プーリーと、哲夢さんがかわいがっていたミニスター。思い出深い大切な2頭を失った。

「診察した獣医師によると、おそらく、草に含まれる成分が原因で中毒を起こしたようです。私、死にたいくらい落ち込んじゃったの。そもそもプーリーもミニスターも私が選んで、ここに連れてきたゾウです。

 もし私が選ばなければ、死ななかった。あの日、スタッフに草取りをさせず、それをエサとしてゾウたちに与えなければよかった、とか、とにかく自分を責めて。全部私のせい、と思ってしまったんです。

 哲夢が亡くなったときでさえ後を追うことは考えなかったのに。あの子がやり残したことを私がやらなければ、という思いがあったから。でも今回ばかりは……」

 プーリーがこの世を去り、その後を追うようにミニスターも──。そんな彼女を暗闇から救い出してくれたのは、またも天国の息子だった。

久し振りに哲夢が夢に出てきたんです、プーリーとミニスターを連れて。“ミニスターは僕のところに来たけど、プーリーは初め、違う場所に行ってしまったんだ”って。

 ミニスターは哲夢が育てたゾウだけど、プーリーは哲夢が亡くなったあとにうちに来たから面識はないんですよ。だからあちらの世界で迷っちゃったみたいなの。

 でも夢の中で息子は、“ミニスターが捜して僕のところへ連れてきてくれたよ。プーリーも僕が世話をするから大丈夫だよ”と言ってくれて。すごくリアルな夢でした。こういう夢を見られるということは、私はまだ自分の勘を信じていいんだ。そんなふうに思えて」

 小百合さんは、落ち込んだとき、何か行動を起こすことで自分を奮い立たせる。

「気分を変えなきゃと思って。『勝浦ぞうの楽園』の近くに、マンションを一室保有していたのですが、それを買い替えようと思い立ったんです。

 ネットでリゾートマンションのサイトをチェックしていたら、館山にいい物件があって。見に行くと、景色が素晴らしくてね。買っちゃったの(笑)」

 以来、動物園のイベントがない限りは週末を館山で過ごしているそう。

私の休みは金曜日の夕方から土曜日だけ。日曜日の朝には車を飛ばして市原に帰ってきますよ。ひとりでも不自由なく生活できる場所なので、いずれ終のすみかにしようと思っています。老後に、子どもたちに迷惑をかけたくありませんから」