病院関係者は肩を落としてこう話す。

「チェックが甘かったとしか言いようがない。病院には廣出容疑者以外にもお金を扱う職員が何人かいるが、電子会計システムを使いこなせるのは彼だけ。必然的にチェックの中心になり、財務諸表をつくる担当者でもあった。いかにも入金されているように、月々の財務諸表の現金預金残高と、通帳残高の数字を合致させる偽装を見抜けなかった。今思えば彼は、周囲がどんな数字を見ているかよくわかっていた。チェック作業の大事な部分を担当する彼を信頼し、やられてしまった」

事件の舞台となった町立南伊勢病院
事件の舞台となった町立南伊勢病院

 年度末決算を迎えた今年4月、数字が大きく合わず、何らかのケタ間違いか、科目の仕分けミスをまず疑ったという。廣出容疑者が会計担当者として病院に転任してきた2019年から4年目に入り、積み重ねた横領金額はごまかせないレベルになっていた。さらに昨年は新型コロナウイルスのワクチン接種などで現金収入が増えているはずなのにやけに少なかった。

「疑問点を彼に尋ねると、あらかじめ準備していたのか早く回答するものの、納得できるようでできなかった。それが横領が発覚したきっかけ」(前出の病院関係者)

貢いだ相手は25歳の女性アイドル

 横領は病院会計にとどまらず、前任の下水道課でもやっていたと判明。足掛け6年となる公営企業会計のプロフェッショナルが黒い金をつぎこんだのが、ひと回り以上も年齢の離れた25歳の女性アイドルだった。

「中堅女性アイドルグループのA子さんが“推しメン”で、SNSで本人とさかんにやり取りしていました。テレビなどではあまり見かけないグループですが、根強いファンを持ち、インドア派でか弱いイメージのA子さんは人気メンバーのひとり。約5分1万円で直接話せるという課金制ビデオ通話を長時間、連日繰り返し、高級ブランドバッグのプレゼント攻撃もして、A子さんから『しょうくん』『VIP』と呼ばれる存在になっていました」(前出の記者)