『ふぞろいの林檎たち』に共感していた

安倍さんが仲のよかった有名人に、俳優の中井貴一さんや、タレントの松岡修造さんがいました。中井さんは2世俳優で、成蹊大学の後輩。松岡さんは、安倍さんの祖父である岸信介さんが事務次官として仕えた実業家で商工大臣も務めた小林一三さんのひ孫です。

 名門出身で朗らかなことで気が合ったのでしょう。彼らのような気のおけない人と、仕事の話を抜きにして食事をすることがストレス解消法だったそうです

 そのいっぽう、こんな面もあった。

反対に、ゴルフや会食で頼みごとをする人は苦手だったと、よく知る人は口をそろえて言います。

 中井さんと仲よくなったのは、安倍さんが大ファンだったドラマ『ふぞろいの林檎たち』('83年・TBS系)の主演を中井さんがしていたこともあったからだといいます。

『ふぞろい〜』といえば、ぱっとしない大学に通っていた学生たちを中心とした群像劇です。登場人物たちが抱いていたさまざまなコンプレックスを、脚本家の山田太一さんが丁寧に描いた名作ですけれども、安倍さんは彼らの言動に大いに共感していたそうです。安倍さんが共感したコンプレックスはどこだったのか、聞いてみたかったですね

 父の晋太郎氏が政治家として志半ばで病死したからか、「政治家をいつ辞めてもいい」とも語っていたという安倍元総理。くしくもその父と同じ67歳で、この世を去ることになった。

 八幡さんには、「いつか映画を撮りたい。ストーリーの構想はあるんです。(製作の過程など)まったくやり方はわからないのですけれど、それを考えるだけで楽しくなれるんですよね」といった話をしたという。

「親しいジャーナリストにも、『政界を完全に引退したら、昭恵の案内で旅行をして映画でも撮りたい』ともらしていた」(八幡さん)とも。

安倍元総理と昭恵夫人

 支持派、反対派と、見解が真っ二つであったものの、その一挙手一投足がいつでも話題の中心となっていた安倍元総理。

 八幡さんはこう想像する。

「製作した映画の内容は、政治家の苦悩や駆け引きなどではなく、まったく別ジャンルの、ほのぼのとしたものになっていたのではないかと思いますね」

教えてくれたのは…

八幡和郎さん
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授。1951年、滋賀県大津市出身。東京大学法学部を経て1975年通商産業省入省。入省後官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。1997年退官。2004年より徳島文理大学大学院教授。著書多数。

取材・文/木原みぎわ