自治体の8割が指針を無視して検診を実施

 ネットニュースのコメント欄やSNSを見ると、多くの人が前立腺がん検診を受けているようだが、国がすすめていないのに、なぜそんなに受けているのだろう。

 実はある調査によると、78.1%もの自治体が国の指針を無視して前立腺がん検診を実施しているのだという。採血だけという手軽さや、メディアが前立腺がんで亡くなった有名人のニュースと合わせて検診を紹介したこと、また、特定の団体がよかれと思って自治体に推し広めたことなどもあり、推奨していないにも関わらず、これほど広まったのだ。

 もちろん、メリットとデメリットを理解して、メリットのほうが大きいと自分で判断して検診を受けるのであれば問題ないが、多くの自治体はそこまでていねいに説明はしていない。国がすすめている胃がんや肺がんの検診と同じように、前立腺がん検診を案内しているケースがほとんどなのだ。

 ちなみに、アメリカで予防や検診のガイドラインを作っている「米国予防医学サービスタスクフォース」は、前立腺がん検診のメリットとデメリットを考えるためのヒントとして以下のように公表している。

 1000人受けると240人に異常値が出て、そのうち80人が手術などの治療を受け、その結果、3人のがんの進行を抑えることができて1~2人の死亡を減らすことができるが、治療を受けた60人には尿漏れや性機能障害が起きる、と。進行を抑えたり死亡を防げるのは1000人中たった3人だけなのに、80人が手術してその大半に後遺症が残るということだ。

「今回の陛下に関する前立腺のニュースを見た人が、必要な『検査』と受けなくていい『検診』をごちゃまぜに考えて、『前立腺がん検診は受けたほうがいいんだ』、『やっぱり受けるべきだ』と誤解してしまわないといいのですが……」

 つぎに自治体から前立腺がん検診の知らせが届いたら、改めて自分でよく考えて、受けるかどうか慎重に判断したい。

中山富雄(なかやま・とみお)●1964年生まれ。大阪大学医学部卒。大阪府立成人病センター調査部疫学課課長、大阪国際がんセンター疫学統計部部長を経て、2018年から国立がん研究センター検診研究部部長。著書に『知らないと怖いがん検診の真実』(青春出版社)など。