そしてそれは近年、聖域であるデビューにも及んでいた。NEWSは山下智久が高校生のうちにデビューをしたいと言ったことで結成に動いたというし、A.B.C-Zも長い下積みを経た上での直談判によりDVDデビューが決まり、ジャニーズWESTに関しては既に4人組でのデビューを発表したにも関わらず本人たちの進言で7人組となった。

 しかし、NEWSは9人から3人になり、A.B.C-ZとジャニーズWESTも他のジャニーズグループに比べ、初期の売上が芳しくなかったことを鑑みると、本人たちの意向を汲むことが、必ずしもよい結果を生み出すわけではないことがわかる。ジャニー喜多川の感覚で作られた“アート作品”には仮にタレント本人だったとしても手を加えないほうがいいのはないか――という仮説もよぎる。

 実は今回、3人が脱退することが発表されたKing & Princeのデビューも、平野紫耀の直談判がきっかけになっている。だが最初は「ソロデビューの可能性も考えてみたら?」と突き返されている。それでも6人でのデビューを望み、今度はメンバー全員で直接訴えた。

温厚なジャニーさんがブチギレた理由

 そのときのことを振り返り平野は「今思い出しても直談判は地獄でした。ブチギレる社長と、しどろもどろに話す僕。めちゃめちゃ怖かったです」と語っている。結果、デビューは認められたが、ジャニー喜多川が“ブチギレ”るエピソードはなかなかない。しかも相手は、舞台の主演に抜擢するなど、当時から大きな期待をかけていた平野である。

 もしかしたら、ジャニー喜多川はこうなることを予見していたのではないか、とすら思う。本人たちの意見を尊重することは、優しさに感じられる。だが、その一瞬の優しさが、長い目で見れば本人たちに必ずしもよい結果を生み出すわけではないことをジャニー喜多川は気づいていたのではないだろうか。

 結果的に、King & Princeはジャニー喜多川が最後に世に送り出したグループとなった。自分がいなくなった後の彼らの幸せを考えて、平野の直談判を突き返し、さらに“ブチギレ”たのでは――そう考えると、ジャニー喜多川の考えた通りの形でグループをデビューさせることは決してエゴではなく、タレントたちのことを考えた本当の優しさなのではないか、と思う。だからこそ、その優しさの塊の作品に、メンバーを追加するといった形で手を加えたりすることは、ご法度なのである。(文中敬称略)

霜田明寛 文化系WEBマガジン『チェリー』編集長。ジャニーズに造詣が深く、テレビやラジオにも多数出演している。’19年には『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)を刊行