のしかかる何重もの負担

「うちの場合、コロナ禍の苦境はまだ耐えられたんです。感染対策で、使うビニールと袋詰め作業の負担は増えましたが、リモート需要でパンを買い求めるお客さんが増えたし、マイバッグ普及でレジ袋の消費が減りましたから」

 そう話すのは、私鉄と地下鉄が乗り入れる都内住宅地に90年ものあいだ店舗を構える老舗ベーカリーの店主。

 聞く話によると、同業者のなかでも、コロナ禍で来客が減り閉店に追い込まれたのは、どちらかといえば駅ナカなどの通勤ルートや、観光地の店舗が多かったという。住宅街のベーカリーはステイホーム中の地域顧客に恵まれ、なんとかしのぐことができたというわけだ。

「ただ本当にどうしようもないのは、今年に入ってからの値上げラッシュ。この状況だと本来は入るはずの利益の半分以上が、仕入れ分の高騰に吸い取られてしまう。本当にひどい話ですし、いいかげんにしてと言いたい」(ベーカリー店主、以下同)

 パンの原材料である小麦の価格が世界規模で跳ね上がったニュースは記憶に新しい。しかしベーカリーの負担はそれだけにとどまらず、パン作りに欠かせない油類なども、今年だけで数回の断続的な値上げ。

 さらに11月には乳製品各種もその対象に。これまで「気軽に買ってほしいから」との一心で値段を据え置いてきた店側も、いよいよ値上げに踏み切らざるをえない局面だ。

「いつも使っていた材料の原価が、倍以上になっている状況です。ホンネを言えば、店を守ることを考えて、相応の金額に値上げをしてしまいたいところですが……。

 でも、それをしては気軽に買える値段ではなくなってしまう。怖いのは、パンが日常の食卓に並ばなくなることです」