「コンビニ」や「トレンド」に勝てない

 実は経営が苦しくなるからくりは、コロナ禍や物価高以外のところにもある。何より大きいのは、大手メーカーで作られ、コンビニやスーパーなどに卸されるパンの存在だという。

町のパン屋さんでも、感染対策で多くのメニューの袋詰めが一般化。店側の心遣いも残らず届いてほしいが……
町のパン屋さんでも、感染対策で多くのメニューの袋詰めが一般化。店側の心遣いも残らず届いてほしいが……
【写真】みんなに届いてほしい、町のパン屋さんの心遣い

「長年お店をやっていますが、近場に新しく便利なモールなどができると、どうしてもお客さんがそちらに流れてしまうところはありますね」

 工房のパンとほとんど変わらない美味しさで、販売価格も同じくらい。手に取れる店舗数も多く、開店時間も長くて、日用品のついでに買える……。これだけのポテンシャルを持った競合に、個人経営で勝負していくのは確かに至難の業だ。

 とはいえ、なかには売り上げを伸ばすためのマーケティングに力を入れており、うまく生き残っている小さな店もある。

 例えば“インスタ映え”を狙ったオシャレなオリジナルメニューを看板にしていたり、素材にこだわって商品のストーリー性を重視しているような店などは、若者の間で情報拡散されることで一定数の顧客を獲得し続けられることも。しかし、そうした同業者の傾向を見ても、ベーカリー店主はため息をつく。

昔はそうでもなかったのですが、最近はお客さんの興味の新陳代謝も早い気がしています。次から次へと流行りが移り変わっていくのでは、新しい店ばかりがもてはやされ、昔ながらの店が忘れ去られていく。

 入れ替わり立ち替わりの激しい時代の波についていく力が『昔ながらのパン屋さん』にはないのかもしれません」

 経営的には、利益率が高い業種といわれている。昨今のパンブームの波に乗って売り上げを伸ばすことさえできれば、度重なる不況のなかでも生き残る術はあるのかもしれない。

 とはいえ、強いビジネス競合を相手にしながら、少子化による後継者不足、コロナ禍の社会不安や値上げも重なっては、あっという間に経営破綻を起こしてしまう。

「近所で昔から残っている店は、うちの他には豆腐屋さんぐらい。あとのお店はもう全部やめられてしまった。個性豊かな商店が増えてもいいものなのに、今は飲み屋や定食屋がほとんど。

 そうなると、生活に便利なのはスーパーやモールしかありません。新しいビジネスからの悪い影響を真っ向から受けてしまうのは、いつだって町の小さな商店なんです」

 可愛らしい動物の形をしたパンや、「揚げたて」のポップが躍るカレーパンが並ぶ光景は町のベーカリーならではの温かさ。いつまでも地域に寄り添い続けてほしいと願うばかりだが、今後も試練は続いていきそうだ。

(取材/文 オフィス三銃士)