美しい瞳の輝きを再現

 団十郎さんの作成した義眼を一見すると、人体のリアルなパーツのようで、確かにドキッとする。だが見ているうちに、そのつややかな瞳に吸い込まれるような魅力を感じていく。美しい瞳の持ち主に心を動かされる物語は太古の昔からあるが、そんなストーリーが思い浮かぶ。

「当方で新しく義眼を作り替えたいと、若い女性がお母様とともにいらしたことがあります。じっくりご希望をうかがい、後日に完成品をつけていただいたところ、鏡から振り返ったときに見えた笑顔とお母様に駆け寄る姿がとても印象的でした。お母様も少し涙を浮かべてお話をしていただいたときは私たちも感情が高まり、目頭が熱くなったことを覚えています」

 最近は、顧客のリクエストもあり、また義眼の可能性を広げたいという気持ちから、幻想的な作品を次々と作り出している団十郎さん。数年前からSNSで発信しており、海外からも問い合わせが来るという。

義眼が必要な人も、その境遇で考え方はさまざまですが、 “隠す”から“自己表現のひとつ”とお考えになる方々が増えてきていることに時代の流れを感じています。

 義眼を必要とする背景やその渦中のご苦労や葛藤を知る身としては戸惑うところもありますが、ご利用者が前向きになれる一助になるのであれば、ご要望にあわせてデザイン性の高い義眼の製作も承っている状況です。

 インターネットで即時に世界と繋がることができる現在では、より多くの情報が昔より集めやすくなりました。また国内外の技師仲間との繋がりや関わり方も多様化しています。世の中の新しい技術の革新が義眼を取り巻く環境へどう入ってくるのか。デジタル技術を取り込むことで新しい価値観が生まれ続けるのか。

 今後も、製作者として、かつ利用者として関わりつつ、身体の負担も心も軽くなるような義眼と、その最新情報を提供していけたら、と考えています」

 さまざまな境遇を経たうえでたどり着いた、団十郎さん製作の美しい義眼たちは、利用者に新しい世界を切り開く力を与えているようだ。

(取材・文/木原みぎわ)