時にヒロイン以上に存在感を発揮するクセ強兄。もはや朝ドラにとって欠くことのできない存在であり、その背景に「ヒロイン像の変化がある」と田幸さんは解説する。

「昔と違って今のヒロインは“私が私が”の自己主張が強いタイプではなくなってきています。昔はヒロインのやらかしにみんなが巻き込まれ、兄は優しくて頭が良くて妹の理解者という位置づけだった。けれど今はヒロインではなく周りの人物にトラブルを起こさせることで物語を動かしている。ヒロインがおとなしくなったぶん、兄がトラブルメーカーとしての役割を背負わされています」

神木隆之介は“リアル朝ドラ主人公”

 『舞いあがれ!』の舞にしても、家族思いの優等生で、自ら騒動を起こすことなく周囲の言動に振り回される。典型的な今時のヒロイン像だ。

「ヒロインとの対比もクセ強兄の役割のひとつ。シビアな現実を伝えるのが兄の悠人で、その対比により世間知らずでふわふわした舞の甘さを浮き彫りにしている。実は悠人は家族の中でいちばん言っていることがまっとうで大人。悠人のことを“家族なのにそんなふうに言うなんてひどい”と言う人もいるけれど、家族だからこそ言えることでもあって。ただ悠人の場合は言い方が不器用なだけ。そこは作り手の意図したところで、それにより家族の確執を際立たせています」

NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』公式HP
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 この春からは次期朝ドラ『らんまん』がスタート。“日本の植物学の父”といわれた牧野富太郎をモデルにした物語で、主人公・槙野万太郎を神木隆之介が演じる。

「神木さんが主演ということで、最高の人材をあててきたなという感があります。主人公の幼少期から成長する姿を親戚のおばさん感覚で応援する─これが朝ドラの王道な見方で、神木さんは彼が小さいころから視聴者が見てきたリアル朝ドラ主人公。誰もが共感できる人材です」

 『らんまん』は朝ドラとしては久々の男性主人公で、万太郎の姉・綾を佐久間由衣が、母・ヒサを広末涼子が演じる。クセ強兄らしき人物は今のところ見当たらないが。

「『らんまん』においては、クセ強キャラは兄ではないかもしれません。ただ優等生イメージの強い神木さんが騒動の元凶になるというのは想像しにくく、主人公以外の人物で誰かやらかしキャラが登場するのでは。お次はどんなクセ強キャラが登場するのか、期待したいと思います」


たこう・わかこ 週刊誌や月刊誌、Webメディアなどで俳優や脚本家のインタビューや、ドラマに関する記事を執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある

取材・文/小野寺悦子