スタイリスティックス初の生ライブで電気が走る

「朝一番でチケットカウンターに駆けつけ、『一番前の席をください!』と言ってチケットを手に入れました。生で聴くスタイリスティックスはやっぱり素晴らしかった。オーケストラ演奏のビッグバンドで、もう電気が走りましたね。

 チケットを買うとき『会えないかなぁ?』と頼んだら、『会わせてあげるよ』と言われて。中学生のくせに生意気で、だから可愛いなと思ってくれたのかもしれません。終演後、メンバーに会いに楽屋を訪ねて、メンバー全員と会い、さらに羽田まで見送りに行って、一緒に記念写真を撮ってもらいました。

 ヴォーカルのハーブ・マレルさんと握手をしたら、外国の香水の匂いがした。その手はしばらく洗えませんでしたね。ハーブさんとは今でも交流があって、当時のことを覚えていると言っています」

歳をごまかしてアルバイト

 アルバイトを始めたのも中学2年生のとき。レコードにコンサートと、ブラックミュージックのファンでいるには軍資金が必要だ。地元のファストフード店で、「16歳」と年をごまかした。

「あるときバイト先で広告の撮影があり、外国人の男性モデルからハーブさんと同じ香水の匂いがした。何という香水なのか、どうしても知りたい。片言の英語で尋ねたら、『アラミスだ』と言う。売っている店を調べ、バイトで貯めたお金で買いました。

 以来アラミスは私にとって特別な香水になり、ずっと後になって父にプレゼントしています。私の優等生時代は小学校で終わり、中学になるとどんどんグレていきました。1970年代という時代の空気もあったと思います。

 何でもアリの『パッチギ!』のような世界で、仲間とつるんで喫茶店に行っては、学生服でたばこを吸っていましたね。親は相変わらず厳しくて、手が飛んでくることもしょっちゅう。

 それでもめげずにしたいことをしていました。ある日届いた一通の手紙が、私の中の価値観を一変させた。そこで私は自分のいい子時代に別れを告げようと決めました」(次回に続く)

<取材・文/小野寺悦子>