洋式化が進まない最大の理由とは―

 すでに10年以上前から、小学校で初めて和式トイレに接する子どもが大多数となった。最近では、入学に備えて和式トイレの使い方を教える保育園・幼稚園もある。幼い子どもが、使い慣れない和式トイレで服や上履きを汚さずに用を足すのは至難の業だ。

「朝から夕方まで長い時間を学校で過ごすなか、便意を我慢する子どもが多くいます。体調が悪くなって保健室に駆け込んだり、我慢が日常化してひどい便秘になったりと、健康問題は深刻です」

 便秘が悪化し、病院のエックス線検査で腸に大量の便がたまっていることがわかった子どもの例もある。

 学校のトイレ洋式化がなかなか進まない最大の原因が予算の問題だ。

「全国的に、公立の小中学校では建物の老朽化が進んでいます。耐震工事やエアコン設置が優先され、トイレ改修は後回しにされがちなのです」

 洋式化の割合は、自治体により大きな差がある。文部科学省の'20年の調査では、例えば同じ東京23区内でも荒川区の公立小中学校の洋式トイレ率99・4%に対し、大田区では52・4%だった。地方では、人口の少ない町立や村立の学校で洋式トイレ率100%を達成している例も少なくない。

「文部科学省では、洋式化に伴う改修工事の補助金制度を整えています。ただ、あくまでも補助金であり全額支給ではないため、学校数の多い自治体では相当なコストがかかります。そのため自治体それぞれの考え方によって、トイレ改修工事の優先度合や洋式化の達成率が大幅に変わってきてしまうのです」

和式トイレの誤った知識

 また“和式トイレはお尻が接触しないから清潔”といった誤った知識も、洋式化を遅らせる原因のひとつだ。住宅設備機器メーカーのTOTOが、ある小学校で行った調査では、トイレ内で圧倒的に菌が多かった箇所は和式トイレが設置されたタイル床。次が手洗い用の蛇口だった。

「実は洋式便座の菌数は、スマートフォンの表面や、天日干しした洗濯物、着用後の靴下などよりもずっと少ないのです」

 和式トイレの床に水を流してデッキブラシでこする昔ながらの“湿式清掃”が、細菌繁殖の最大の原因であることは実験や調査で判明している。

お尻が接触しないから清潔”“床に水を流したほうが清潔”といった主張は感覚的なものでしかなく、非科学的だ。

“リフォーム”された学校のトイレ。入り口もカラフルになっている
“リフォーム”された学校のトイレ。入り口もカラフルになっている
【写真】リフォーム後明るく清潔になったトイレ、生徒から歓声が上がることも

 現在、学校でのトイレ改修工事では便器の洋式化と床の乾式化をあわせて行うことがほとんど。工事後、明るく清潔なトイレを見て、生徒から歓声が上がることもあるという。