大便をすることでからかわれたくない

 研究会では、トイレ改修前後で子どもたちの心や生活に起こる変化も調査している。

 ある中学校において、改修前では教職員53人のうち29人が「トイレにまつわるいたずらやからかいが見受けられる」と回答した。それが改修後は1人にまで減った。

 別の小学校では、トイレを我慢する理由として7人の生徒が「大便をするとからかわれるから」と答えたが、改修後は0人になった。

 特に男子トイレでは、小便器と個室が分かれているため大便をしていることが他人にすぐわかってしまい、からかいの対象になりやすい。改修後に、思い切って男子トイレも女子トイレ同様に個室のみとした学校もある。しかし特徴的なのは、小便器と個室に分かれたスタイルのままでも改修後のからかいが激減することだ。その理由について研究会は「改修前の汚く暗いトイレのイメージが、子どもたちのコミュニケーションにまで陰湿なイメージを与えていたのではないか」と分析する。

 和式トイレの問題点は、子どもたちの心身の負担にとどまらない。

「現在、全国の公立学校のうち9割以上が災害時の避難所に指定されています。'16年の熊本地震の際に避難住民を対象とした調査では、避難所で不便を感じたこととしてもっとも多かった回答が“トイレが和式”というものでした」

 避難所となった学校では、足腰の弱い高齢女性がひとりで和式トイレを使えず、ボランティアに支えてもらい用を足す例もあった。女性はそれが心苦しく、洋式トイレのある別の避難所に移ったという。

「好みの問題ではなく、身体的に和式トイレを使用できない人もいます。和式トイレに行くのがいやで水分の摂取を控え、体調を崩した避難住民もいました。災害時、トイレを中心とした衛生環境は生命に関わる問題。学校のトイレは、避難者の排泄の尊厳を守る義務もあるのです」

 温水洗浄便座など画期的なトイレを発明し、“世界一のトイレ先進国”と評される日本。来日観光客はまず空港で、日本のトイレのあまりの美しさに驚かされるという。その一方で、子どもたちに古く非衛生的なトイレの使用を強いている現実がある。トイレのせいで登校できない子どもたちがいる事実に、私たち大人は真剣に向き合う必要がある。

<取材・文/植木淳子>