インフレ時代に賃上げは可能なのか

 インフレの時代だからこそ、企業のビジネスモデルが正しかったのか否かが浮き彫りになる。なんとも皮肉な答え合わせが始まろうとしている。

「考えてもみてください。ユニクロって、昔は1000円前後の商品がたくさんあったと思いませんか?しかし、今は3980円といった価格帯の商品が主力です。

 ところが、人気は落ちません。賃上げは、“思いつき”や“ウルトラC”ではなく、企業のビジネスモデルと戦略がしっかりしているからこそできるのです」

 では、国の施策はどうだろうか?自民党は、「物価高騰・賃上げへの取り組みに7.8兆円」などの経済対策を打ち出しているが……。

「インフレ対策は短期と中長期、2つの視点から考える必要があります。短期的には、値引きや補助などでガソリン、電気といった光熱費を抑える施策を発表している。この点は評価していいと思います」

 半面、「岸田政権は中長期的な戦略が描けていない」と言及する。先述した企業を例にすれば、経営者としてクエスチョンがともる状況だ。

「本来であれば、インフレを超えるような賃上げを、中長期的に実現しなければいけません。そのためには、企業の経営改革、日本の産業構造改革を促すような政策を打ち出さなければいけません。

 ですが現状は、儲けを出している企業は賃上げを実行してください──、そう丸投げしているような状況です」

 具体例を出して、加谷さんが補説する。

「現在、インフレは日本だけではなく、全世界的な課題になっています。これを乗り越えるためには、“AI化”と“再生可能エネルギー化”の2つしかないといわれています。

 人件費を抑えるためには、できるだけ少ない人数で同じ業務ができる“AI化”を推し進める必要がある。そして、エネルギーコストが上昇しているのだから、輸入に頼らず自国でエネルギーを生み出すことができる“再エネ化”が必須です」

 昨年、ドイツは2035年以降、国内の電力供給をほぼ完全に再生可能エネルギーによってまかなう方針を発表。

 背景には、ウクライナ侵攻によるロシアからの天然ガス供給停止という事情もあるが、「早期の段階から欧州では“再エネ化”を実現するための先行投資が行われている」

 と加谷さんは語る。

「ひるがえって日本はどうかというと、お世辞にも“頑張っている”とは言えない。日本は石油や(原発の燃料となる)ウランを海外からすべて輸入している。

 つまり、他国にエネルギーを左右されてしまう国です。今回のような急激な物価上昇は、そのツケともいえます。こうした状況から脱却するという施策を打ち出さないといけません。あえて前向きに考えるなら、このインフレは日本のエネルギー問題を再考する好機ともいえます」

 足元の物価は気になるだろう。だが、もっと遠くまで視野を広げないと、つまずくどころでは済まないかもしれない。

加谷珪一(かや・けいいち)●経済評論家。経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。著書に『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)など

(取材・文/我妻弘崇)