食事に関する依存症

「痩せ姫」と呼ばれる人たちのなかには、そういうケースが目立つ。やせることにこだわり、食や美をめぐって葛藤する人たちのことだが、味の好みも極端になりがちだ。

 そもそも、ダイエットは心身をコントロールしたい欲求のあらわれ。身体をデザインして、心を安定させたいという行為だが、ダイエット自体が心身への負担にもなる。

 そこで、極端な味によって「食べた!」という感覚を満たしたり、ストレスを紛らわせたり。ただ、そのうち、バランスが崩れ、制限型拒食や排出型拒食によるやせすぎ、過食による太りすぎへとつながったりもする。

 例えば、ある20代女性は太りやすいものを徹底してとらないことでBMI値12.5という痩身を手に入れたが、その結果、週に1、2度、食べ吐きをするようになった。そのとき食べるのはもっぱら、菓子パンやケーキなど、ふだん我慢しているものだ。

「とにかく甘いものが食べたくなって、たとえ真夜中でも、暴風雨のなかでも買い出しに行ってしまう」という彼女は、

「私にとって、麻薬のようなものなんです。甘い味が舌やのどに当たる感じってなんともいえず心地よいし、あんこや生クリームのなかに埋もれていると、心が安らぐんですよ」

 と言う。甘味にも、依存性はあるのだ。

 ちなみに、米国のセラピスト、A・W・シェフの著書『嗜癖する社会』には、

《物質であろうとプロセスであろうと、ほとんどあらゆるものが嗜癖の対象になり得る》

 とある。食に限らず、酒やタバコ、ギャンブル、買い物など、人間は何かに嗜癖しながら生きていて、それがエスカレートすると、依存症などと診断されるわけだが──。なかでも、生活に最も身近で欠くことのできない食への依存は厄介だ。

 辛味や甘味以外に、薄味に徹底してこだわる人もいるし、肉食を完全否定する「ヴィーガン」と呼ばれる人も。さらには、無農薬や無添加でないと受けつけないという「自然食」派の人もいて、食への依存をめぐる状況は多岐にわたっている。

 自然食といえば、現代人にとって最も刺激的なのが「自然の味」なのかもしれない。「文明の味」に慣れてしまい、自然にまで嗜癖するという不自然な存在が人間なのだ。

 ただ、過ぎたるは猶及ばざるが如し。激辛好きの弊害はすでに述べたとおりだし、激甘好きにも糖尿病などのリスクがある。ヴィーガンが栄養不足になる話もよく聞くし、ほどほどが肝心なのだろう。

 そんななか、ヘルシーで太りにくいといわれるのが、和食。実際、日本人は長寿だし、日本の女性は世界のなかでもやせているほうだ。

 とはいえ、現代女性のやせ願望、その根底にある、美や生きづらさをめぐる葛藤は根深い。世界に誇れる和食でも、解決できるものではないのかもしれない。

加藤秀樹(かとう・ひでき)●中2で拒食症の存在を知り、以来、ダイエットと摂食障害についての考察、その当事者との交流をライフワークとしてきた。著書に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社)がある。