パソコンを使わず頭の中に作品の完成図が

 世界各国のLCPと三井さんの間で、レゴ ブロックの作り方には決定的な違いがある。パソコンとの関わり方だ。

「部分的にしかパソコンを使わない人はいらっしゃるんですけど、大半の方は使っている。海外の工房は巨大化していて、プロとして依頼される作品は、ある程度巨大さを求められる。高さ、幅が10メートルサイズのものを作っているビルダーは大勢います。大人数で組み立てるためには、共通の設計図が必要ですから、パソコンで設計するようになります」

 世界の主流に背を向けるかのように、三井さんはパソコンを使わない。手描きでスケッチを描く程度で、あとは頭の中で3Dの完成図を練り上げる。よって大人数のユニットは組めない。1人のアシスタントが三井さんを支える。

「設計図を作らない形でやっているので、クオリティーコントロールは2人でしかできない。こういう形で作ろう、というコンセプトだけを共有してやっている」

 5年前から組んでいる相方とのやりとりは、まさに日本的な、あうんの呼吸といえる。

「日本で最も腕が立つビルダーの1人で、転職するという話を聞きつけて、ヘッドハンティング的にお願いしました。ビルダーの腕というのは、自分が表現したいものがちゃんとあるのか、それを表現するだけのスキルがあるのか、自分の作風というものをしっかり表現できるのか、といったものです。彼のすごいところは、自分の作風がありながらも、私の作風に寄せることができること。アシスタントのスキルとしてはかなり完璧。それは技術力に余裕があるから。馬力のあるエンジンを積んでいるから余裕を持った運転ができる感じです」

 前出『レゴジャパン』の橋本さんも「頭の中で作られるので、空間認識能力、把握能力がすごい。時間とサイズ感をはじき出せる」と舌を巻く。

 三井さんとの交流も深い、神奈川・川崎市で特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人白山福祉会・事業部長の高橋得法さん(51)も「空間認識がすごいなと思いましたね」という出来事を明かす。

「2014年4月に特別養護老人ホーム『ラスール麻生』を開設した際、『三井淳平アートミュージアム』を設けました。子どもから高齢者まで万人が楽しめるものはないかと考えたところ、“地域交流のためにレゴだ!”と。交流スペースにレゴ作品を展示しましたら、開設日に800人が来場して、狙いはどんぴしゃりでした」と振り返る高橋さんは、いくつか作品を発注した過程で、次のようなことがあったと話す。

「伊藤若冲の『鳥獣花木図屏風』をほぼ原寸大、高さ約2メートル、幅10メートルで作ってもらいました。枠を作る際、設計の方がパソコンを使っているんですが、三井さんは感覚で、あと何ミリ上にとか横にとか指示を出す。それが設計したものとピッタリなんです。驚きました」

 三井さんの頭で設計し、その場で組み上げ方を選び取るライブ感、アナログ感が、どうやらこの先、大いに味方となっていく兆しがある。

 近頃、チャットGPTなどの登場により生成AIの是非が世界中で取り沙汰されているが、「7、8年前から意識していました」と三井さんは自らの見通しに自信を深める。

「パソコンで設計すると画一的な設計になりがちだった。どうしても似たような作品になり、表現することが飛ばされてしまうというか。この先、AIと競う時代になったときに、違いを出すことがますます難しくなる。できるだけパソコンを使わない方法を模索したのはそのためでもありました」