「助言」ではなく「傾聴」すること

 相談員になるには、まず公開講座に参加する必要がある。講座では活動内容などを詳しく聞き、そのうえで決意に変化がなければ研修申し込みを行う。

 このとき、4000字程度の作文の提出が必須となる。その後は面接・適性テストを経て、宿泊研修や、実際に電話を使ったロールプレイング実習などに約2年を費やす。前述したように、費用は全額自己負担だ。

「相談員に認定されて3年がたちますが、今も自分の力のなさを実感して落ち込むことがあります」

 原さんは、この3年間で実にさまざまな相談と向き合ってきた。上司の理不尽なパワハラに悩み、命を絶つことまで思い詰めていた男性。若いころに受けた性的虐待が深い心の傷となり、死にたいと電話をかけてきた女性。

 コロナ禍では、仕事を失った非正規労働者の将来に対する不安についての相談も増えた。

 原さんがもっともつらいのは、自分が相手の役に立てたのかどうかわからないときだ。

「いろんな人がいますから、時には相手の話が理解できないこともあります。うまく話ができない人や、声が小さすぎて聞き取れないような人もいます。

 そんな相手に、自分は何かしてあげられたのか。自宅に帰ってからも、どうしようもなく気持ちが沈んでしまうことがあります」

 相談員らが、電話相談でもっとも大切にしていることは“傾聴”だという。

「つい、“こうしてみたら”など助言したくなるときもありますが、そんなものはこちらの価値観の勝手な押しつけでしかないんです。

 相手を認め、対等な立場で丁寧に話を聞いていくと、話している人も少しずつ落ち着いてきます。ひとりじゃない、話を聞いてくれる人がいるとわかってくれるんです。

“もうちょっと頑張ってみます”というひと言が聞けたときは本当にうれしいし、そのためにこちらも毎回、自分の持っている力を精いっぱい出し切っています」

 2023年の1月から6月までの日本全国の自殺者は1万858人。前年同期比で330人減少。男性は7483人で39人減、女性3375人で291人減となっている(警視庁調べ)。

『日本いのちの電話』の相談員は、全国に約5800人。

「あなたはひとりではない」

 顔も知らない誰かの命を守るため、今この瞬間も、全国の相談員らが無償で活動を続けている──。

芸能人の自殺記事には『いのちの電話』連絡先が添えられるようになった
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【写真】神田沙也加さんの訃報記事にも添えられていた『いのちの電話』の連絡先
いのちの電話【相談窓口】
「日本いのちの電話」ナビダイヤル 0570(783)556(午前10時~午後10時)フリーダイヤル 0120(783)556 ※毎月10日にフリーダイヤル(無料)の電話相談を受け付け
毎月10日:午前8時~翌日午前8時

(取材・文/植木淳子)